地元の循環器医療を背負っていく覚悟で。
【循環器内科】金子 伸吾医師(済生会西条病院 循環器科)ー(前編)
10年目を見据えて
――初めから地元に戻ってくる予定だったのでしょうか?
金子(以下、金):学部時代から、卒業後しばらくは東京で修行をしようと思ってました。全国で通用するレベルの知識や技術を身につけて、地元に戻ろうと。
ちょうど4年くらい前に、ここの病院の循環器科が閉じてしまい、地元の方からも「戻ってこないか」という話があったんです。カテーテルに関しても、術者としてある程度自信がついてきた頃で、その頃からこちらに戻る準備を少しずつしてきました。
――平坦な道のりではなかったんでしょうね。
金:そうですね。墨東病院に入って1年目は内科やER(救急診療科)を中心としたジェネラルローテーション、2年目に心臓血管外科、救命センターで研修をしました。3年目にようやく循環器に関わるようになりますが、1年間は病棟、CCU、救急対応業務が中心で、カテ室では外からの見学のみでした。4年目でやっと診断カテーテルに関わるようになり、術者になれたのは5年目です。それからは毎年400例くらいは手がけ、倒れそうなほどに忙しい時もありましたが、その経験が今に繋がっています。
思えば、初期研修がとても役立っていますし、下積みがあったから技術がちゃんと身についたと感じますね。若手が「早く自分でやりたい」と感じるのはわかるのですが、指導する立場になり、「助手として、術者の考えをすべて理解できるまで経験して、ようやく術者ができる」と考えるようになりました。
これ以外に、月に3~4回の当直・救急対応。
地元の循環器医療を背負っていく覚悟で。
【循環器内科】金子 伸吾医師(済生会西条病院 循環器科)ー(後編)
環境は自分で作るしかない
――カテーテル治療の設備なども充実しているようですが。
金:僕がこちらに来るにあたって、病院側もカテーテル治療に力を入れようということで、立派な設備を整えて下さいました。墨東病院でも設計に携わった経験を踏まえ、全国の病院のカテ室も見学させてもらって、自分なりに充実した治療環境を作ったという自負はあります。声をかけていただいてから3年が経ち、「10年目には地元の医療に貢献できるようになりたい」という夢に、やっと辿り着いたという感じです。
――医師の世界ではまだ若手と言われそうな年齢ですが、自分で環境を切り拓くのはすごいですね。
金:ここ愛媛県の東予地区は、隠れた医療過疎地域なんです。救急はもとより、医療機関にかかるという住民意識も不足しています。PCIやPPI、つまり自分の技術で救える命、QOLがあるなら、その環境を作るしかないということで、取り組んできました。
また、当院は循環器科がしばらく閉じており、治療をサポートできるスタッフもいなかったので、CEや看護師も自分で育てる必要がありました。幸い院内から精鋭メンバーが集まってくれたので、赴任後3か月でコアスタッフは軌道にのりました。心電図もスタッフが自分で読んで、僕に情報提供してくれるんですよ。
――そういう環境作りなども、墨東病院で学んできたんですか?
金:もちろん、自分が上の先生から学んだこと、そこで培われたシステムなどを参考にしています。けれど、教えられたわけではなく、自分なりに考えたり、他の病院や他の先生からも学んできました。
以前、後輩たちを教えていて感じることも多かったのですが、大事なことを「教えてもらえる」と思ったら大間違いです。自分から学び取っていくくらいの気持ちでいなければ、主体的に動ける医者になれませんから。
今後目指していく姿
――西条病院に循環器科を立ち上げて半年ですが、今後はどんな医師になっていきたいですか?
金:夢を語るようですが、ここにちゃんとした循環器病センターを作りたいです。今は一人でやっていますが、一緒にやっていける若い医師にも来て欲しい。カテーテルの施術を動画中継できるシステムを作ったり、定期的に東京などからエキスパートに来てもらって勉強会も開いています。レベルの高いものに触れられる環境を作り、それを発信していくことで、やる気ある若い先生にとって魅力ある病院にしていかないと、と思います。今は、夢を語る若い医師があまり多くないので、僕はどんどん夢を語ることにしているんです(笑)。
医学生へのメッセージ
――最後に、医学生へのメッセージをいただければと思います。
金:循環器科の医者としては、やっぱり学生さんに、いわゆる「メジャー科」に来てほしいと思います。大変な部分もありますが、「大変そうだから」と避けることなく、一度は内科や外科で患者さんの命・人生と向き合うという道も考えてほしいと思います。
あとは、市中病院で指導医をした僕自身の経験から言うと、自分から学ぶ姿勢のない研修医は成長しません。大学病院や医局には、全員をある程度のレベルまで育てる仕組みがあるのでしょうが、市中病院は違います。その代わり、やる気さえあれば、僕のように膨大な症例を経験することもできます。一概には言えないかもしれませんが、市中病院で研修を受ける方は、明確な目標、より強い目的意識と主体的に学ぶ姿勢を持って臨んでほしいですね。
- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04
- 創刊「これから医師になるひとへ」日本医師会会長 横倉義武
- 創刊「医学生に向けて」全国医学部長病院長会議会長 森山寛
- 特集:臨床研修制度を考える~医師としての第一歩をよりよくするために~
- 特集:臨床研修病院選び~何を大事にしたらよい?~
- 特集:「教育重視vs.実践重視」
- 特集:「大学病院vs.市中病院」
- 特集:「ジェネラル志向vs.専門志向」
- 特集:医師はどう育てられてきたか
- 特集:海外の医師養成
- 特集:他の専門職の養成制度
- 特集:座談会「これからの医師養成のあり方について」
- NEED TO KNOW:医療者のための情報リテラシー
- チーム医療のパートナー:臨床工学技士
- 地域医療ルポ:岩手県大槌町|植田医院 植田 俊郎先生
- 先輩医師インタビュー 海堂 尊
- 10年目のカルテ:循環器内科 川崎 大輔医師
- 10年目のカルテ:循環器内科 金子 伸吾医師
- 医療業界ニュース
- OPINION:総合診療(科)について思うこと
- 日本医師会の取り組み:勤務医の労働環境改善のための取り組み
- 日本医師会の取り組み:東日本大震災の際のJMATの活動報告
- 医師の働き方を考える:「女子医学生~それぞれの新しい出発の時に~」女性医師支援センター
- 医師の働き方を考える:「医療現場の男女共同参画をめざして」男女共同参画委員会
- 医師の働き方を考える:女子医学生のお悩み相談室
- 医学生対象のアンケート調査
- BOOK「閉鎖病棟/医者は現場でどう考えるか」