医療現場の男女共同参画をめざして
男女共同参画委員会の取り組み
小笠原 真澄(日本医師会男女共同参画委員会委員長*)
女性医師が働き続けられる環境を考える
全国の医師数は平成22年12月31日現在で29万5049人、そのうち女性医師は5万5897人であり、その比率は18・9%とほぼ2割程度です。しかし、平成12年に医師国家試験合格者に占める女性の割合は30%を超え、以後30数%で推移しています。また、近年の医学部入学者に占める女性の割合も3割を超え、大学によっては40~50%が女子医学生となっており、やがては女性医師4割時代が到来するとも言われています。
一方で、女性医師の就業率を見ますと、医学部卒業当初は男性とほぼ同率ですが、卒業後11年で76・0%に減少します。その後再び上昇し、いわゆるM字カーブを示すのですが、当初の就業率にまでは回復しません。卒業後の10年は医師としてのキャリア形成の時期ですが、多くの女性医師は結婚・出産・育児期と重なります。女性医師にとって、この時期の保育や育児の環境が整えば、選択肢が広がり、自らの意思で勤務を継続していくことが可能となります。
日本医師会では、女性医師の就労継続のための支援として、何が求められているのかという事を明らかにするために調査を行いました。これは、男女共同参画委員会が女性医師支援センターとともに実施し、「女性医師の勤務環境の現況に関する調査」として平成21年3月に報告されていますが、国内の全病院8800施設に調査票を配布し、有効回答数7467、有効回答率49・7%を得た大規模調査です。
その結果からは、女性医師の勤務環境改善のために、基本的に必要な事として①医師全体の勤務環境の改善、②医療への適正な投資、③意思決定機関への女性の参画 などが指摘されました。②や③に関する内容は、別の機会にご紹介したいと思いますが、①は、女性医師が勤務を続けていくことこそが勤務医を含む医師全体の就労環境の改善につながり、ひいてはより良い医療提供体制の実現につながっていくという視点からとても大切なことです。
さらに先の調査によれば、女性医師が勤務を継続するために必要とされる支援策とは、①柔軟かつ多様な保育システム(24時間保育を含む院内保育、病児保育、学童保育の整備、それらの情報提供など)②就労形態の多様化(フレックス制や短時間正社員制度、複数主治医制やチーム医療体制の確立)③再教育、復職支援システム、④周囲を含む意識改革、⑤相談窓口の設置 などでした。
男女共同参画フォーラム
日本医師会男女共同参画委員会では、このような支援策を実効あるものにするために、平成17年から毎年、日本各地で「男女共同参画フォーラム」を企画し、男女共同参画の視点を取り入れた医師の働き方、医療現場における意識改革などを提言してきました。今年は第8回フォーラムが、富山市で予定されています。これまでの7回を振り返りつつ、第8回フォーラムについてご案内しましょう。
第1回から第3回までは、それぞれ東京、大阪、横浜で開催され、女性医師の勤務の現況と課題、女性医師バンクをめぐる諸問題、医師の勤務環境の改善などを取り上げました。そのなかで、男女共同参画委員会の活動としての女子医学生や研修医等へのサポート事業(現在は女性医師支援センター事業として実施)、勤務環境の整備に関する病院長や管理者等への講習会などについて報告し、保育システム相談員についての提案をしました。これは、現在女性医師等相談窓口事業として実施されています。第4回以降は、順次福岡、札幌、鹿児島、秋田で開催されています。メインテーマは、それぞれ「医療崩壊をくいとめるために、今何ができるか、何をなすべきか」「医師の働き方を変える」「男女共同参画のための意識改革」と続き、昨年の秋田大会では、「育てる~男女共同参画のための意識改革から実践へ~」と題してシンポジウムが行われました。基調講演は村木厚子内閣府統括官からお話しいただきましたが、シンポジウムの後に「その時々の状況によって、できること、やらなければならないこと、やりたいことは変わっていくと思うが、その時期に応じてバランスを取り、それを周囲がサポートしていくことによって男性も女性も育ち伸びていく」というコメントを残されました。
今年は7月28日(土)午後1時より富山第一ホテルにおいて、「変わる~男女共同参画が啓くワークライフバランス」をメインテーマとして開催されます。プログラムの詳細は、後日日本医師会ホームページにも掲載されますが、参加ご希望の方は日本医師会企画課(TEL03-3946-2121(代))にお問い合わせの上、お申し込み下さい。
この夏、富山でお会いしましょう。
執筆者:小笠原 真澄
(リハビリテーション医学)
1982年 獨協医科大学医学部卒業
大湯リハビリ温泉病院院長
秋田県医師会理事
日本医師会男女共同参画委員会委員長*
*2012年3月31日現在
- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04
- 創刊「これから医師になるひとへ」日本医師会会長 横倉義武
- 創刊「医学生に向けて」全国医学部長病院長会議会長 森山寛
- 特集:臨床研修制度を考える~医師としての第一歩をよりよくするために~
- 特集:臨床研修病院選び~何を大事にしたらよい?~
- 特集:「教育重視vs.実践重視」
- 特集:「大学病院vs.市中病院」
- 特集:「ジェネラル志向vs.専門志向」
- 特集:医師はどう育てられてきたか
- 特集:海外の医師養成
- 特集:他の専門職の養成制度
- 特集:座談会「これからの医師養成のあり方について」
- NEED TO KNOW:医療者のための情報リテラシー
- チーム医療のパートナー:臨床工学技士
- 地域医療ルポ:岩手県大槌町|植田医院 植田 俊郎先生
- 先輩医師インタビュー 海堂 尊
- 10年目のカルテ:循環器内科 川崎 大輔医師
- 10年目のカルテ:循環器内科 金子 伸吾医師
- 医療業界ニュース
- OPINION:総合診療(科)について思うこと
- 日本医師会の取り組み:勤務医の労働環境改善のための取り組み
- 日本医師会の取り組み:東日本大震災の際のJMATの活動報告
- 医師の働き方を考える:「女子医学生~それぞれの新しい出発の時に~」女性医師支援センター
- 医師の働き方を考える:「医療現場の男女共同参画をめざして」男女共同参画委員会
- 医師の働き方を考える:女子医学生のお悩み相談室
- 医学生対象のアンケート調査
- BOOK「閉鎖病棟/医者は現場でどう考えるか」