地道な研究の積み重ねで先進的な分野を切り拓く
【神経内科】島田 斉医師
(放射線医学総合研究所 分子イメージング*研究センター)-(前編)
臨床志向の研究者
――いつから神経内科医を目指していましたか?
島田(以下、島):親が神経内科の医師で、昔から神経内科医になるイメージはありました。医局を決めるときに小児科や放射線科も気になりましたが、脳神経が最も面白そうだなと。2年目は救急病院に研修に行き、とにかく何でも診る経験をしました。もともと2年目は脳神経外科を回って、脳を内と外の両方から診たいと考えていたのですが、憧れていた先生に誘われたのがきっかけで、救急病院の神経内科に行くことにしたんです。結果的に、臨床のスキルをキープできているのは当時の経験のおかげだと思っています。
――「いずれは研究者になろう」と思っていたのでしょうか?
島:実はそうではなくて、僕はバリバリの臨床志向なんです。放射線医学総合研究所(以下、放医研)に来たきっかけは、研修医の時の最初の指導医がたまたま放医研で研究をしていて、PET*検査の見学に行かせてもらったことでした。そこで脳のイメージングの面白さに気づきました。4年間は大学に籍を置きながら放医研で研究をし、大学院を出て現職につきました。
* PET… Positron Emission Tomography(ポジトロン断層法)。ポジトロン(陽電子)を放出する薬を体内に吸収させ、放出される放射線を画像化することで、脳や心臓の働き、がんなどを調べる検査法。
地道な研究の積み重ねで先進的な分野を切り拓く
【神経内科】島田 斉医師
(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)-(後編)
研究は泥臭い
――具体的に、どのような研究をされているのでしょうか。
島:認知症の根本治療につながる研究です。これまで認知症は、原因が解明されていない難しい分野として、主に精神科の先生が最前線で向き合ってきました。しかし研究が進み、脳内に異常タンパクが蓄積し、神経伝達異常や炎症を介して神経細胞死が誘導される疾患だということがわかってきています。背景のメカニズムが明らかになるにつれて、進行を抑えたり予防したりするための働きかけができるようになってきました。そこで今度は、根本治療ができる薬を作ろうという研究が行われているのです。ただ、今までは創薬研究の過程で、生きている患者さんの脳の中を見ることはできませんでした。そこでイメージングという手法が役に立ちます。イメージングによって基礎的なデータを蓄積しておくことで、治療効果を客観的に評価しながら創薬ができるのです。
――その中でも、先生がイメージングをしているのは、タウという異常タンパクだと。
島:はい。近年まで、アミロイドβという物質が、認知症の原因として最多のアルツハイマー病の原因とする説が最有力でした。アミロイドが溜まって、その後にタウが溜まって、炎症が起き、脳神経の細胞死が起こるという仮説です。これに関しては、既にPETによるイメージングが進み、標的薬による治験も進んでいましたが、アルツハイマー病発症後にアミロイドを除去しても、病気の進行を止められないことがわかってきたのです。さらに言えば、アミロイドが溜まるのはアルツハイマー病とレビー小体型の一部だけで、それ以外のほとんどの認知症ではアミロイドはあまり溜まらない。けれどタウは様々な認知症で溜まっていて、神経障害に密接に関連しているというデータも出てきた。そうなると、タウはアミロイドと同等か、あるいはそれ以上に重要なファクターなのではないかと注目を浴びてきたんです。僕は、そのタウイメージングの研究の中でも、技術開発をするところではなく、ヒトの脳で技術評価を行うところに携わっています。ただヒトに投与するとなると、もちろん倫理的な課題もあります。難しいのですが、できるだけ効率よく事務的なことをクリアして、患者さんに研究協力を得て…というところを僕が担っています。
――とても先進的な分野ですね。
島:確かに、学会発表や論文だけを見ると臨床とは隔絶していると思われるかもしれないけれど、実際には泥臭いことをやっているんですよ。例えば20人の患者さんに研究に協力してもらうためには、60人くらいは診療しないといけないのです。外来で診て、研究の説明をして、同意を取って、研究所に来ていただく。画像撮影についても、機械の操作や一部のデータ処理は技師さんにお願いしますが、研究者が率先して介入しないとなかなかいい画像が撮れないので、自分で行っています。じっとしていてくれない認知症の患者さんをなだめたりする必要もありますし、市中病院の臨床にかなり近いことをやっていると思いますよ。そうやって得たデータを地道に解析して、最終的にできた綺麗なデータだけをみなさんの前に出しているのです。
今後のキャリア
――これからのキャリアプランはどんなものですか?
島:研究と臨床というスタイルは変わらないと思います。こういう研究所には、医学以外の分野で優秀な人がたくさんいます。彼らに言わせれば、二足のわらじなんて言っているのは甘いと思われるかもしれない。ただ、僕は医師として研究をしている以上、世の中の困っている患者さんをどうにかしたい。臨床をやっているから問題提起ができる研究と、研究をやっているから見える臨床の両方があるから、僕にはどっちが欠けてもダメだなと思っています。
2003年 千葉大学医学部卒業
2014年7月現在
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター
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