視能訓練士
国立障害者リハビリテーションセンター病院
三輪 まり枝さん
人々の視覚をサポートする
人の視力は生まれた時から完成しているわけではなく、6歳頃までに適切な視覚刺激を受け取ることによって発達します。この期間に何らかの理由で適切な視覚刺激が与えられないと、眼球自体に問題がなくても視力の発達が阻害されてしまいます。
「例えば片眼が遠視で視力に左右差があるお子さんの場合、どうしても良い方の目だけ使ってしまい、悪い方の目の視力が育たなくなってしまいます。でもそれは、早期に適切な眼鏡を選定し、訓練をすれば改善できることがあります。良い方の目をアイパッチという覆いで隠し、悪い方の目を優先的に使わせることで、0.1しかなかった視力が1.2まで向上したこともあるんですよ。」
そう語るのは、国立障害者リハビリテーションセンター病院で視能訓練士長を務める三輪まり枝さん。視能訓練士という国家資格は、見る経験を幼少期に十分積めなかったために視力が育っていない弱視*の子どもの訓練にあたる専門職として、昭和46年に誕生しました。現在、その活躍の場は、眼科検査全般や集団健診へと大きく広がっています。また、訓練や治療をしても視機能が十分に回復せず、日常生活に困難を来している「ロービジョン」の人へのケアも大切な仕事の一つです。
「ロービジョンに悩む方々も、拡大鏡や拡大読書器、単眼鏡などの補助具を使うことで、日常の不便を軽減できるんです。患者さん一人ひとりに合った補助具を選定し、使い方の指導を行うのが私たちの役目です。」
高齢化に伴い、白内障や糖尿病網膜症などで視力を落とす人が増えている今、眼科だけではなく他科の医師にも、患者の見えにくさに気を配ってほしいと三輪さんは言います。
「ご高齢の患者さんですと、眼鏡の傷や汚れに気付いていなかったり、高度近視があるのに弱い眼鏡しかかけていなかったりすることがあります。見えにくさは患者さんの生活やリハビリの質に大きく関わってきますから、注意してチェックしてあげてほしいです。必要に応じて、私たち視能訓練士に相談していただけるとありがたいですね。」
見える喜びを伝えたい
30年の勤務の間、三輪さんはたくさんの患者の「見たい」という思いに応えてきました。
「特にお子さんは、『こうすればもっと見えるようになるよ』と知識を伝えてあげれば、自分の見たいものをどんどん見るようになります。好きな読書やゲームを楽しむなかで自分の興味関心を広げ、立派に社会に巣立っていく姿も多く見てきました。見える喜びを味わってもらい、患者さんの可能性を引き出してあげられるのが、視能訓練士の仕事の醍醐味だと思います。」
*弱視…弱視には、「医学的弱視」と「社会的弱視」の二つの定義が存在する。視力の発達期に適切な視覚刺激を得られなかったために生じる「医学的弱視」に対し、「社会的弱視」は、日常生活や教育の場で特別な配慮を必要とする、回復困難な視力障害のことを指す。本文中では「弱視」は専ら「医学的弱視」の意で用いている。
※この記事は取材先の業務に即した内容となっておりますので、施設や所属によって業務内容が異なる場合があります。
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