大解剖!医療保険のしくみ

座談会「これからの医療保険制度」(前編)

日本の医療保険のしくみについて理解できたところで、湧いてくる様々な疑問について、医学生3名が日本医師会の中川俊男副会長に聞きました。

私たち日本医師会は、すべての国民が、公平な負担のもとで同じ医療を受けられることが公的医療保険の柱だと考えています。ちょっと堅い表現ですが、私たちの基本理念をまずは紹介します。

このような理念・方針について、質問や意見があればお願いします。

基本理念
  1. すべての国民が、同じ医療を受けられる制度
  2. すべての国民が、支払能力に応じて公平な負担をする制度
  3. 将来にわたって持続可能性のある制度
(日本医師会が考える公的医療保険制度の基本理念)

公的医療保険を全国一本化し、公平な負担を実現する

医学生A:現在は、加入する保険によって保険料の負担が違うという話を聞いたことがありますが、本当ですか?

中川副会長(以下、中):はい、現状では加入する保険によって保険料率が違います。そこで日本医師会としては、現状を変えていくため、公的医療保険を全国一本化することを提言しています。それによって、住んでいる地域や職業にかかわらず、公平な負担を分かち合うことができ、かつ保険運営の効率化にもつながります。

もちろん制度を一本化した後も、現在と同じように、高齢者や低所得者に配慮して保険料や負担割合を調整する必要があります。特に高所得者の保険料については見直すべきと考えます。現在は国民健康保険でも被用者保険でも、保険料に限度額が設けられています。つまり一定以上の所得があると、保険料をそれ以上支払わなくてもよいという上限があるということです。この上限を引き上げ、高所得者からも所得に比例した保険料を徴収するようにすることで、保険料の増収を目指しています。


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座談会「これからの医療保険制度」(後編)

患者の自己負担を減らし、税金から投入する公費を増やす

医学生B:高齢者や低所得者の負担を軽くするためには、結局は税金を使うことになりますよね。増税が必要になって、かえって国民は苦しくなるのではないでしょうか。

中:公的医療保険制度を「将来にわたって持続可能性のある制度」にするためには、むしろ患者の自己負担を減らし、代わりに税金から投入する公費の割合を増やすべきだと考えます。日本医師会では、患者の自己負担を一般は2割、高齢者は1割にすることを提案しています。そもそも、65歳以上でも元気な人が多い今の時代、高齢者を何歳以上とするかも、これからの議論を踏まえて判断していかなければならないですね。

日本は下のグラフのように、アメリカ以外の主要国に比べると、国民の税負担が少ないのです。日本医師会としては、医療費の安定的財源を確保するよう訴えているのです。

図3

図3出典:「国民負担率の内訳の国際比較(財務省)」

混合診療ではなく、公的医療保険の充実を

医学生C:「すべての国民が同じ医療を受けられる」ことが大切なのは理解できるのですが、新しい治療法や薬を使うと医療保険が使えず、全額が自己負担になってしまうことがある、と聞いたことがあります。医師を目指す私たち学生とすれば、最新の治療法や新しい薬であっても、患者さんに大きな負担なく提供できる世の中にしてほしいと思うのですが。

中:もちろん、有効性や安全性が確認され、国民にとって普遍的であると認められた治療法や薬については、速やかに保険適応が認められるべきです。そのためには、高度医療・先進医療・医薬品の評価を行う充実した体制が求められます。日本医師会は、国や関係機関に、その体制強化を働きかけています。

いわゆる「混合診療」によって、先進医療を受けやすくすべきだという声もあります。ですが、医療技術の進歩による医療費の増加を、患者自身の負担によってまかなうべきではないと私たちは考えます。本当に必要な医療は、先進的なものであっても高額なものであっても、医療保険で支えていくというのが本来あるべき姿だということです。

ただ、現状で先進医療を受けられない人を減らすため、厚生労働大臣の定める「評価療養」と「選定療養」では、保険診療との併用も認められています。

地域に根ざした健康づくり活動に医師会も力を尽くしている

医学生B:保険者は保険を運営するだけでなく、加入者の健康を支援するサービスも行っていると聞きました。けれど、もし保険者が一本化されたら、現在行われているような、組織をあげた健康支援サービスが廃れてしまうのではないでしょうか。

中:確かに、これまで個々の保険組合で被保険者の疾病予防・健康増進を図る努力がなされてきたと思います。そのような面から考えれば、公的医療保険の一本化への反対も少なくないかもしれません。しかし、様々な格差をなくし、国民に安心をもたらすという観点では、やはり一本化の必要性があると考え、理解を求める活動をしています。

また、健康増進は保険者だけが行うものではなく、自治体はもちろん、各都道府県医師会・郡市区医師会でも地域での健康づくりを推進しています。日本医師会も地域医療を取りまとめる立場として、より地域に根ざした健康づくり活動に力を尽くし、地域住民の健康を守っていきます。

まとめにかえて

特集「大解剖!医療保険のしくみ」はいかがでしたか? 

今後、みなさんが医師として人々の健康を守っていくためには、医療現場に留まらない幅広い視野が必要とされます。社会の中にどのように医療が位置づけられているのかが、非常に大事な視点になってくるのです。

これをきっかけに医学生のみなさんにも、医療保険制度について改めて考えてほしいと思います。


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