地域医療ルポ
「この街に住んでいてよかった」と思える地域に
京都府京都市南区 大森医院 大森 浩二先生
区の西側を桂川が流れ、東は鴨川を挟んで伏見区と接する。北側はかつての平安京の南端(八条大路~九条大路)にほぼ相当し、都の正門である羅城門と、王城鎮護のための東寺・西寺が建った。大森医院は京都駅からJR線で一駅、住宅地と商業・工業地域が入り混じった地域にある。
「私が生まれる前年、父が大森病院を開業しました。私は病院の中で育ったようなものなんです。両親の代わりに看護師さんが子守をしてくれて、患者さんにも『大きくなったらボクもお医者さんになるんやね』なんて言われたりしてね。」
患者に慕われる父が幼心に誇らしく、医学の道を志したのは自然なことだったと先生は語る。地元の京都府立医科大学医学部卒業後、父と同じ外科に入局。大学や出張先の病院で腕を磨きながら、大学の関連施設の一つである実家の大森病院にも出向き、父の診療を学んだ。
「病院は平成7年から無床診療所となりました。その翌年、父から連絡があり、慌てて帰省すると大病を患っていたんです。地域にかける父の思いを受けて、医院を継ぐことを決めました。」
継承後間もない頃は、以前から診ていた患者にがんが見つかると、紹介先の病院で自らメスをとることもあった。しかし徐々にその診療内容は変化してきた。
「お年を召されて通院が難しくなった患者さんに往診を頼まれることが多くなりましてね。このあたりは幸い専門医の数も多く、入院の紹介先には困りません。近所の病院には気心の知れた大学の先輩後輩もいる。それならば自分は、手術をするより、患者さんとそのご家族の思いに添いながら外来や在宅診療をすることに専念すべきだと思うようになりました。
看取りを始めたのも自然な流れでした。医院を継いだ直後、父の代から診ていた、ある患者さんの往診を頼まれたんです。その方はご高齢になられ、認知症が進んでいました。寝たきりになり、経口摂取が徐々に減っていくのを静かに見守ったら、最後は苦しまれることなく枯れ枝のように自然に亡くなり、ご家族にとても感謝されました。地域のかかりつけ医の仕事は、こうして患者さんや家族とじっくりお付き合いして寄り添ってゆくことなのではないか、と。」
24時間体制で看取りに対応するため、先生は訪問看護師などの他職種とも積極的に連携している。地域で切れ目のない医療を行うため、患者の診療情報を共有できる「連携カードシステム」の導入も進めた。
「患者さんが複数の医療機関を受診されていることもあるため、それぞれの重要な診療情報をカード1枚で参照でき、検査や投薬の重複を防ぐことができたら、どんなに便利かと思い、医師会の有志で開発しました。みんなが『ここに住んでいてよかったな』と思えるような地域にするため、地域の医療関係者同士で協力して、より良い地域医療を構築していきたいです。」
(写真中央)副院長であり耳鼻咽喉科医の妻と協力して診療にあたる。
(写真右)大森医院の外観。
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