10年目のカルテ

様々な専門性がある中で
「何でも診られる」医師であり続ける

【脳神経外科】橋本 尚美医師
(中国労災病院 脳神経外科)-(前編)

脳神経外科医のキャリア

10年目のカルテ

――まず、脳神経外科を選んだきっかけを教えて下さい。

橋本(以下、橋):もともと、内科か外科か選ぶなら外科がいいなと思っていました。診療の幅が広いし、外科でないとできないことも多いなと感じたので。

脳神経外科に決めたのは6年生の時です。実習で脳の手術を見学する機会があったのですが、そのとき「脳ってすごく清潔なんだ」ということを知って、惹かれました。力仕事があまりないので女性でもできそうだと感じたことも大きかったです。

――入局して、まずどのような症例を経験するものですか?

橋:最初は、慢性硬膜下血腫の手術に入ることが多いです。症例として多く、リスクも少ないからです。もちろん1年目は上の先生に教えてもらいながらですが、早ければ2年目くらいからメインでやらせてもらえる症例です。水頭症のドレナージも早くからやらせてもらえますね。

その後、開頭手術に入るようになります。まずは外傷など、直接脳を触らなくてもできるような手術を経験します。簡単なものであれば2~3年目でメインを任せてもらえますよ。そして次に、開頭手術の中でも、脳出血やくも膜下出血など脳の中を直接触るような手術に入れるようになります。顕微鏡を使うものは難易度が高いので、ある程度経験を積まないとやらせてもらえません。

―― 一人前だと認めてもらえるのはいつ頃ですか?

橋:専門医の資格がとれるのが7年目以降なので、それを過ぎたら責任を持って手術を任せてもらえるようになりますね。それまでは、最初の方だけやらせてもらって、大切なところは専門医の資格を持った先生がやるという感じです。

――現在はどのような手術をメインで手がけていますか?

橋:今私がいる中国労災病院の脳神経外科は、脳血管障害を中心にやっています。大学病院などに比べたら症例数もバリエーションも多くはないですが、急患でくも膜下出血の患者さんが多く運ばれてくるので、脳動脈瘤のクリッピング手術をやる機会は多いですね。カテーテルを使用した手術もありますが、放射線を使うので、うちの医局では女性はあまりやりません。

10年目のカルテ
10年目のカルテ

様々な専門性がある中で
「何でも診られる」医師であり続ける

【脳神経外科】橋本 尚美医師
(中国労災病院 脳神経外科)-(後編)

仕事のやりがい

――脳神経外科のやりがいはどんなところでしょうか。

橋:やっぱり手術をしているときはすごく熱中していますね。上手・下手というよりも、私は手術をすること自体が好きなんだと思います。ただ、患者さんとの関わりという点では、脳神経外科だと患者さんとコミュニケーションがとれないことがほとんどなんです。重篤な症状の患者さんの場合、手術をしても完全に元気になって帰っていくことはめったにありませんし、入院中に診ていた患者さんでも、私のことを覚えている方はほぼいません。ただ、回復して外来に通院できるようになった患者さんを見かけたときは、やっぱり嬉しいものです。

――急性期の後は、回復期の病院に転院したり、リハビリテーション施設に移る患者さんも多いのでしょうか。

橋:そうですね。ただ、リハビリの開始は早ければ早いほどいいので、急性期でも理学療法士や言語聴覚士と連携してリハビリを行っています。また、急性期から直接在宅に戻られる患者さんもいらっしゃいますから、そういう場合は医療ソーシャルワーカーと連携しながら、家庭環境について考えたり往診の先生を探したりといったこともしていますよ。

脳神経外科の専門性は様々

――脳神経外科を目指す医学生にメッセージをお願いします。

橋:昔は「脳外科」といえば、脳ならば本当に何でも診る科というイメージでした。極端な話、意識障害ならば原因が何であろうとうちに運ばれてきていたぐらいですから。今は神経内科との連携も進んでいるので、まず神経内科が診察した上で、手術が必要な患者さんだけが紹介されてくる場合も増えました。

ですからこれからは脳神経外科の医師も、より専門性を高める必要があるのかもしれません。大学病院など大きな病院では、カテーテルなどの手技を極めていくこともできますし、小児脳外やてんかん、脊髄などのスペシャリティを持つこともできます。専門性に様々な選択肢があるところは、脳神経外科のいいところだと思います。

――ご自身のキャリアに関してはどうお考えですか?

橋:そうですね…今のような市中病院にいる限りは、それでもやはりめまいでも頭痛でも認知症でも「何でも診られる」ことが強みになると考えています。専門的なところはできる人にやってもらって、私は自分のできる範囲で、人に求められることをやっていきたいなと思っています。

今はまだ独身なので、夜間待機にも柔軟に対応できますが、結婚して子どもができたら難しいかもしれないと想像したりもします。ただ、私は14年目で一番下っ端なので、自分より下の人が入ってくれば仕事と家庭の両立もきっとできると思います。

橋本 尚美
1999年 富山大学医学部卒業
2013年4月現在 中国労災病院 脳神経外科