地域医療ルポ
基幹病院との分担を考えつつ地域のニーズに応える
北海道名寄市 名寄市風連国民健康保険診療所 松田 好人先生
北海道北部に位置する、人口およそ3万人の都市。風連地区は旭川と稚内のほぼ中間に位置する内陸地で、夏冬の寒暖差は60℃にまで及ぶ。厳寒期には気温が-30℃以下になることもあり、5月上旬まで雪が残っていたという。
「ここ、あまり診療所っぽくないでしょう?」と、44歳の若き診療所長は笑う。「暖かい日はみんな畑仕事をしてるから、患者さんが減ります。敬老会があるときも全然人が来ない。病気を治しに来る場所っていうより、近所の人がたまに顔を見せに来る場所っていう感じに近いんじゃないかな。」
旭川空港から車で北上すること2時間、名寄市風連地区の診療所で働く松田好人先生は、第一回日本医師会赤ひげ大賞の受賞者。雪深い地域にもかかわらず、24時間体制で往診を行った実績などが評価された。
「車で20分ほどのところに市立の総合病院があるから、僕にわからない症状の患者さんが来た場合は、すぐ専門の先生に相談します。病院がもっと遠かったら、ある程度のところまで僕の方で診なければならないけれど、このぐらいの距離なら早く病院に行った方が、患者さんはこじらせずに済みます。」
市立病院にかかった患者さんは、後からわざわざ松田先生を訪れて「先生、病院ではこういう治療をされたよ」と教えてくれるそうだ。地域で働く医師はこうやって患者さんに育てられていくんだと実感する瞬間だ。
もちろん、市立病院に助けを乞うばかりというわけではない。松田先生は常に地域の医療ニーズに気を配りながら、市立病院と診療所それぞれが担うべき役割のバランスをとっている。 「特別養護老人ホームの入所者の容態が悪化したときは、その場の処置で助かる場合、病院での治療が必要な場合、さらにそのまま看取るのが適切な場合もあります。すべて搬送していたら急性期病院の先生たちは疲弊しますし、助かるべき命が助からない。だから特養からの呼び出しには僕が駆けつけて、できる限りの診療は施設内でやるようにしています。」
最初は、病院に連れて行ってほしいと言う患者さんや家族も多かった。それでも、定期的に特養に回診に行き、夜間の呼び出しにも対応するうち、「この先生に任せれば大丈夫」と、徐々に信頼を得るようになった。結果的に病院に救急搬送される人数も減った。
「受け入れ先の先生方も、自分の専門領域の患者さんであればちゃんと受け入れてくれます。だからこそ、こちらでできる仕事はできる限り引き受ける。そうすることで、『この先生が送ると判断したなら、多少忙しくても受け入れよう』という信頼関係ができるんです。
僕の仕事はすきま産業のようなもの。ニーズに合わせて形を変えていけば、お互いに気持ちよく仕事ができるんですよ。」
(写真中)風連国保診療所の外観。2010年に移設されたばかり。
(写真右)冬には道路が雪に埋もれてしまうこともあるという。
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