難しい分野だからこそ臨床と研究の橋渡しとなる
自分らしい仕事ができる
【呼吸器内科】光石 陽一郎医師
(東北大学病院 呼吸器内科)-(前編)
呼吸器内科の魅力
――呼吸器を専門にしようと思ったのはいつ頃ですか?
光石(以下、光):初期研修の2年目くらいから呼吸器に興味はありました。生命に直結する分野に携わりたいという気持ちから、循環器と呼吸器で迷ったのですが、がんが診られる科がいいなと思い、呼吸器に絞りました。
呼吸器内科が診る疾患は治らないものが多く、看取るケースも少なくありません。また肺は、たくさんの細胞からできている複雑な臓器であり、疾患も多様で、画期的な治療法がないこともよくあります。そんな中でも、新旧の技術や治療を組み合わせて、なんとかしていかなければならない。そういう難しい分野だからこそ、何かできることがあるのではないかと感じたんです。
臨床だけでなく研究も
――教育に定評のある病院で研修を受けてきたにもかかわらず、なぜそのまま臨床でキャリアを積む道を選ばず、大学に戻られたのでしょうか。
光:教育に熱心な病院で学ばせていただいたこともあって、臨床の優れた先生方ともたくさん出会いました。けれど臨床の最前線で、自分らしく、かつ新しいことをするのはとても難しいなという実感がありました。一方、サイエンスのテクノロジーはものすごい勢いで発展しており、さらに科学的な知見を臨床に応用していく報告がどんどん増えていました。こういった状況を見て、やっぱり臨床のエキスパートというだけでは何かが足りないのではないか、自分はもうひとつ、サイエンスという武器を持つべきなのではないかと考えたんです。
振り返ってみると、臨床と基礎研究の両方をやりたいという気持ちは、学生時代からあったように思います。というのも、大学3年の時に3~4か月、ひたすら基礎研究の実験をやる機会があったんですが、そこで出会った先生から「サイエンティフィック・フィジシャンになりなさい」というお言葉をいただいたことがあって。つまり、臨床医も基礎研究者ももちろん必要だけれど、両方の良さをわかりながら、患者にしっかり還元できる医師になれということです。この言葉がずっと頭に残っていました。
難しい分野だからこそ臨床と研究の橋渡しとなる
自分らしい仕事ができる
【呼吸器内科】光石 陽一郎医師
(東北大学病院 呼吸器内科)-(後編)
――大学に戻ってからは、どのような経験をされたのですか?
光:最初の1年間は大学病院で病棟を受け持ちました。肺がんと間質性肺炎の患者さんを診る機会が多かったです。
2年目の4月からは、臨床ではなく生化学の研究室に移って、研究に専念しました。そこは酸化ストレスに対する生体防御の機序を精力的に研究している教室で、私はがん細胞の中で酸化ストレス応答を担う転写因子Nrf2がどのような働きをするのかを調べる研究に携わることになりました。何百という数の遺伝子の解析を続ける中で、このNrf2ががん細胞の中の代謝を変化させ、がん細胞の増殖を促進することがわかりました。この転写因子ががん細胞の代謝を変化させるというのは、新しい発見でした。
この発見を発表するための実験が大体終わったころ、東日本大震災が起きました。私は臨床のスタッフとして被災地へ手伝いに出たりしていたので、論文の提出まではかなりドタバタしました。震災後の混乱を乗り越えて、2011年4月に無事論文を提出し、翌年7月には『Cancer Cell』に掲載されました。多くのレスポンスがあり、『Cancer Cell』掲載の原著論文の中から年間10本が選出される「ベスト・オブ・2012」にも選ばれました。
――大学に戻ってからは、どのような経験をされたのですか?
光:当時の上司にはとても感謝しています。網羅的な解析結果を眺めながら、この転写因子が代謝に関わっているのではないか、という突拍子もない仮説を話したときに、面白いからやってみようと言ってくれた。また、震災後の混乱の中、電気もあまり通っていない状況で、メールでディスカッションをしながら論文を仕上げてくださいました。上司に恵まれなかったら、このような成果は出せなかったと思います。
今後のキャリア
――今後のキャリアについてはどう考えていますか?
光:今後も、可能であれば臨床と研究の両方をやれる立場で仕事をしたいですね。臨床だけをやるなら市中病院のほうがいいでしょうが、研究と両立するなら、病棟業務を分担できるような環境でなければ難しいと思います。今はせっかく大学にいるのに、臨床と研究の割合が8:2ぐらいになってしまっているので、なんとか時間を作って研究も頑張らなければと思っています。
実際に研究に携わってみると、自分の学生時代に基礎医学を勉強していたときと比較して、遥かに基礎医学と臨床医学が近い関係にあると感じています。臨床と基礎の両立というよりは、基礎医学の発展を実際の患者さんへ還元していく橋渡しのような立ち位置で、これからも仕事をしていきたいと考えています。
2003年 東北大学医学部卒業
2013年10月現在 東北大学病院 呼吸器内科
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