地域医療ルポ
地域で完結した医療を提供するために日々研鑽する
宮崎県西臼杵郡高千穂町 高千穂町国民健康保険病院 押方 慎弥先生
高千穂町は宮崎県の最北端、九州山地のほぼ中央に位置する。人口は約1万3千人。町内には鉄道の駅がなく、最寄りの駅である延岡駅までバスで約1時間半を要する。高千穂の起源は古く、紀元前4000年頃に集落が作られたと推定され、日本神話とも関係が深いとされる。
四方を山々に囲まれ、近隣に都市がない高千穂町は、古くから「神々の里」として独自の文化を育んできた。地域の人たちは宮崎とも熊本とも違う独特の方言を話し、大らかでのんびりした雰囲気をもつという。
押方先生はこの町で生まれ育ち、地域医療に従事する医師を育てる自治医科大学を卒業。宮崎・熊本両県の病院や診療所で臨床経験を積んだ後、町に戻ってきた。内科医として、外来や病棟業務、救急対応など幅広く担当する。「人口も多くないので、どの患者さんもスタッフの誰かしらと知り合いです。スタッフから患者さんの生活背景を聞いたりすることもありますよ。幼いころの私を知っている患者さんもいて、窮屈さもなくはないけれど、地元ならではの居心地の良さも感じています。」
押方先生が勤務する高千穂町国民健康保険病院は、町で唯一入院施設をもつ急性期病院だ。二次救急を受け入れており、急を要する患者さんはまずここに運ばれてくるが、一部の脳卒中や急性心筋梗塞などの患者さんは診ることができないので、高次医療機関に搬送する必要がある。「高次病院のある熊本市までは救急車で2時間、県立病院のある延岡市まででも1時間はかかります。昼間ならばドクターヘリを要請することもできますが、夜間はヘリが飛べません。こういう地域では、地域の中でどんな症例でもある程度までの初期治療ができる医師が求められているんです。私は消化器内科が専門ですが、とにかく何でも診られるようにならなければと感じます。」
そうしたなかで役立つのが、自治医大出身者のネットワークだという。「わからないことがあるときは、大学出身者のメーリングリストで情報を得たり、急ぎの場合は先輩や同級生に電話してアドバイスを求めたりすることもあります。また、2012年から宮崎県にもドクターヘリが導入されたのですが、担当者が自治医大出身ということもあり、やりとりがしやすくてとても助かっています。」
都市から離れているため、どうしても新しい知識や情報を得る機会が少ないのは否めない。けれども、押方先生はこれからも地元で働き続けながら、都市にいるのと遜色のない医療を提供できるような医師になりたいと考えている。「西臼杵郡医師会では月1回講演会を開催していて、近くで講習を受けられるのはありがたいと感じています。そうした講演会にはできる限り参加しつつ、e-ラーニングなどの便利な手段も活用しながら、日々勉強して研鑽を積んでいきたいと思っています。」
(写真中)道には小学生の姿も。高千穂町には5つの小学校がある。
(写真右)「鬼八の力石」をはじめ、高千穂は神話にまつわる場所が多い。
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