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医の倫理の基礎知識 2018年版
【生殖医療】D-2.生殖補助医療の倫理と法の動向

橳島 次郎(生命倫理政策研究会共同代表)


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 生殖補助医療は世界的に普及しており、日本でも体外受精によって生まれる子は年々増加し続け、2015年には5万人を超えるまでになった。海外では、この技術の安全性や倫理性の確保を図る目的で、法令による公的管理を行っている国が多い。だが日本では、1990年代末~2000年代初めにかけて、厚生労働省等の審議会で繰り返し立法が検討されてきたが、実現に至っておらず、多くは日本産科婦人科学会の会告で自主的に規制されているのが現状である。

 そうしたなか日本医師会は、2013年2月、「生殖補助医療の法制化に関する日本医師会提案」を発表した。その骨子は、次の3点からなる。

①生殖補助医療を受ける夫婦とこれによって出生した児との親子関係の確定に関する法律を設けること
②生殖補助医療を実施することができる医師、医療機関の指定に関する規定を法律に明記すること
③人の尊厳を侵すことのないよう人の精子、卵子、受精卵の売買を禁止すること

 生殖補助医療について最も倫理が問われるのは、夫婦間以外の第三者の精子、卵子等の提供を受けて行われるものだが、日医提案は夫婦間のものまで包括した管理が必要であるとし、まずは社会的合意が得られると考えられた最低限必要な立法事項を提示した。第三者提供を伴う生殖補助医療については別途、立法に向けた検討が進められる必要があると指摘している。

 これに対し自民党を中心とした国会議員有志も立法案を検討し、いくつかの案を経て、2014年11月までに、第三者からの精子、卵子の提供を伴う「特定生殖補助医療」の管理法案と、特定生殖補助医療によって生まれた子の親子関係に関し民法に特例を設ける法案が策定された。だが各党内での合意形成が進まず、2017年12月現在、法案提出には至っていない。世論の関心も高まらず、生殖補助医療の法制化は引き続き課題として残り続けている。

 この間にも、新規の生殖補助医療技術の開発研究が進んでおり、それらの安全性と倫理性について、さらに検討が必要になっている。

 最近の例では、子宮移植がある。先天的、後天的理由で子宮がないか機能しない子宮性不妊症の女性が自分の子を産む手段として研究が進められ、海外では臨床試験が行われている。脳死の女性、または生きている女性から提供され移植された子宮に、不妊カップルの体外受精胚を着床させ、妊娠・出産できたら、その後は免疫抑制などによる副作用を避けるため、移植子宮を摘出するという方法である。子宮移植による出産の世界第1例は、2014年にスウェーデンで実現した。提供者は61歳の生きている知人女性だった。その後スウェーデンでは生きている提供者(主に母親、ほかに姉、おばなど)からの移植で計8例の出産が報告されている。2017年12月には米国で、「善意の」生きている人からの提供で国内第1例目の出産が報告された。脳死者からの提供による子宮移植は2011年にトルコ、2016年に米国で実施されたが、いずれも出産には至らなかった。その後2018年にブラジルで、脳死の女性からの提供による世界第一例の出産が報告された。

 子宮移植はまだ研究段階で、臨床試験として管理される。日本では、慶應義塾大学や名古屋第二赤十字病院が実施に向け準備している。だが臓器移植法では子宮は脳死者から摘出できる臓器に入っておらず、生きている人からの提供にはまったく法規制がないため、法的根拠の欠如が危惧される。倫理的には、命に関わらない臓器の移植は認められるか、生きている人にリスクを負わせる提供は許されるかといった点が問題になる。倫理的・法的問題が多い代理出産の代替となる利点を指摘する声もあるが、先端医療に頼らず養子縁組で子を得ることもできる。個々の生殖補助医療技術の是非は、そうした広い視野で検討されるべきだろう。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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