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医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と社会】G-13.臓器移植改正法の施行後の状況と課題

門田 守人(日本医学会会長、臓器移植ネットワーク理事長、堺市立病院機構理事長)


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 1997年、「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行され、わが国において初めて脳死体からの心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸などの提供が可能になった。しかし、脳死体からの臓器提供には、本人の書面による意思表示と家族の承諾が共に必要であったため、臓器提供数はほとんど増えず、年間提供者数はほぼ一桁止まりという状態が続いていた。さらに、この意思表示は民法上の遺言可能年齢(民法961条)に準じて15歳以上が有効であると理解されていたため、15歳未満の小児からの脳死臓器提供は認められず、小さな心臓の移植を必要としている子どもへの心臓移植はできなかった。しかし、どの国においても臓器提供数は十分でなく、2008年に開催された国際移植学会で、移植が必要な患者の命は自国で救える努力をするという「イスタンブール宣言」が採択された。それ以後、海外渡航移植に頼っていた日本でも臓器移植法の改正の議論が進み、2009年に改正臓器移植法が成立、2010年7月に施行となった。この改正法の衆議院における審議では、年齢を問わず、脳死を一律に人の死とし、本人の拒否がない限り家族の同意で提供できる内容で通過した。続く参議院では、脳死を一律に人の死とするのではなく、これまでの臓器移植法と同様、臓器移植の場合に限って脳死を人の死とする案も提出されたが否決された。とにかく改正法によって15歳未満であっても遺族の承諾によって脳死臓器提供が可能となったのである。

 改正臓器移植法施行後の年間脳死臓器提供者数は、その後順調に増加し2017年には76例に達し、心停止後臓器提供の35例を合わせると年間に111例の死体臓器提供があった。しかし、各国の人口100万人当たりの臓器提供者数を2016年の臓器移植・臓器提供国際登録1)にみると、最も多いスペインでは43.4人で、アメリカ、フランス、イギリスでは、それぞれ31.0人、28.3人、21.4人となっている。ところが、わが国ではわずか0.8人に過ぎず、68か国中の第65位である。隣国の韓国では11.4人となっており、わが国の14倍以上の臓器提供数である。

 一方、昨年末の心臓移植待機患者数は663人で、これまでに375人の患者がわが国で心臓移植を受けていた。一方、心臓移植を待っていた330人の患者が待機中に死亡している。肝臓移植待機患者数は333人、脳死肝移植済み患者数が436人、生体移植済みが466人であったが、待機中死亡数が1,152人となっている。死体肝移植を受けることができた患者の2倍以上の患者が待機中に死亡しているのである。

 わが国で臓器移植法案が成立・施行されて20年過ぎた現在、国民の意識はどうであろうか。内閣府が行っている「臓器移植に関する世論調査」をみると、1998年に「臓器提供したい」と答えた人は31.6%、「提供したくない」と答えた人は37.6%、意思表示カードをもつ人は1.1%であった。それが、昨年の調査では、「臓器提供したい」と答えた人は41.9%、「提供したくない」と答えた人は21.6%、意思表示カードをもつ人は12.7%となっており、約20年の間に大きく変化していることが分かる。

 次に、臓器提供施設の現状を見ると、わが国で臓器提供が可能な施設は大学附属病院や日本救急医学会指導医指定施設等に属する施設(5類型施設)に限り認められている。これ以外の施設では、患者が脳死に陥り提供を希望したとしても、臓器提供をすることはできない。現在、この5類型施設数は全国に896施設あるものの、18歳未満も含め臓器提供の体制整備ができている施設は27.3%、18歳以上のみの体制が整っている施設は16.4%と合わせて、提供体制が整っている施設は全体の43.7%と、臓器移植法が施行されて20年も過ぎた時点で、未だ半分以上の施設で臓器提供ができていないのである。

 一人でも多くの臓器不全の患者を救うため、提供施設の整備をより積極的に進め、一日も早くわが国の移植医療が国際的レベルに到達することを願いたい。

文献

1)IRODaT(International Registry in Organ Donation and Transplantation):Final Numbers 2016.December 2017.
http://www.irodat.org/img/database/pdf/IRODaT%20newletter%20Final%202016.pdf

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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