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平成27年(2015年)12月5日(土) / 日医ニュース / 解説コーナー

ストレスチェック制度の実施に当たっては事業場の状況を日頃から把握している産業医の役割が重要

ストレスチェック制度の実施に当たっては事業場の状況を日頃から把握している産業医の役割が重要

ストレスチェック制度の実施に当たっては事業場の状況を日頃から把握している産業医の役割が重要

 労働安全衛生法の改正を受けて、本年12月から労働者に対するストレスチェックの実施が義務付けられることになった。そこで、今号では担当の道永麻里常任理事に、制度創設の背景やその内容について説明してもらった。

Q制度が創設されるようになった背景は?

A近年、職場での強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者が5割を超える状況の中、事業場において、心の健康の保持増進を図るため、平成18年3月、厚生労働省では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表し、事業場におけるメンタルヘルスケアの実施を促進してきました。しかしながら、仕事によるストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者がその後も増加傾向にあり、メンタルへルス不調を未然に防止することがますます重要な課題となってきました。
 このような背景を踏まえ、労働者の仕事によるストレスの程度を把握し、その結果を基に労働者自身にストレスへの気付きを促し、職場改善に努めることで労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止すること、いわゆる一次予防を目的として、「ストレスチェック」及びその結果に基づく面接指導の実施等を内容とする制度が創設されることとなりました。

Qどのような制度なのですか?

A事業者の責任において、労働者に定期的(2015年12月1日施行後、年1回)に仕事によるストレスの状況について質問票(選択回答)を用いた検査(ストレスチェック)を行います。検査結果を分析し、その結果を直接本人に通知することによって、労働者自身のストレスへの「気付き」を促し、個々のストレスの低減につなげます。
 また、検査の結果、ストレスの高い労働者については、本人の申し出に応じて医師による面接指導を実施し、メンタルヘルス不調にならないよう必要な対応を行います。
 更に、得られた検査結果を集団分析することによって、職場におけるストレス要因を評価し、職場分析と職場環境の改善につなげます。
 次にストレスチェック制度の実施の手順についてですが、図1のようになります。

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 この手順の中で医師などの実施者には、質問票の選定並びにそれに基づくストレスの程度の評価方法、高ストレス者の選定基準の決定について、事業者に対し専門的な見地から意見を述べるとともに、結果に基づき労働者が医師による面接指導を受ける必要があるか否かを確認することが求められています。
 この中の質問票の選定についてですが、(1)ストレスの原因に関する質問項目(2)ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目(3)労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目─の3つの質問が含まれていれば、特に指定はありません。
 万が一、何を使えば良いか分からないような場合には、国が推奨する57項目の質問票(図2)をご使用下さい。また、ITシステムを利用して、オンラインで実施することもできます。厚労省がストレスチェック実施プログラムを無料で公開していますので、そちらもご活用頂ければと思います。

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 次に質問票配布から結果通知、保存についてですが、次の手順で進めていきます。
 (1)質問票を労働者に配布、記入してもらいます。
 (2)質問票の回収は、医師などの実施者(またはその補助をする実施事務従事者)が行います。
 (注)第三者や人事権を持つ職員は、記入・入力の終わった質問票の内容は閲覧できません。
 (3)回収した質問票を基に、医師などの実施者がストレスの程度を評価し、高ストレスで医師の面接指導が必要な者を選びます。
 (4)ストレスの程度の評価結果、高ストレスか否か、医師の面接指導が必要か否かは、実施者から直接本人に通知します。結果については、実施者が把握し、労働者の個別の同意、または労働者から"医師による面接指導の申出"がないかぎり事業者に提供することはできません。
 (5)結果は、医師などの実施者(または実施事務従事者)が保存します。
 *結果を事業場内の鍵のかかるキャビネットやサーバー内に保管することも可能です。第三者に閲覧されないよう、実施者(または実施事務従事者)が鍵やパスワードの管理をします。
 最後に、医師による面接指導についてですが、調査等の結果、「ストレスの程度が高い者」で、「調査を行った実施者が面接指導が必要と認めた者」で、かつ「本人の希望があった者」に対して行うことになっており、その際には、労働者の勤務の状況や心理的な負担の状況などを確認することが求められています。
 更に、面接指導後1カ月以内に、事業者は就業上の措置の必要性の有無、講ずべき措置の内容及び職場環境の改善、その他の必要な措置に関する意見を面接指導を行った医師から意見聴取するとともに、面接指導の結果については事業者が5年間保存することになっています。

Qこれまで及び今後の日医の対応は?

A平成26年6月25日に公布された労働安全衛生法の一部を改正する法律により本制度が創設されたことを受けて、厚労省は同年10月より、具体的な制度の運用方法などについて議論を行うため、「ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」と「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」を設置しました。両検討会には、それぞれ日医の役員が出席し、活発な意見を交わすとともに、産業医に過度な負担とならないよう強く主張して参りました。
 日医では、現在、都道府県医師会産業保健担当理事連絡協議会並びに産業保健推進全国会議を開催し、制度の周知を図っております。
 また、都道府県医師会、全国の産業保健総合支援センターを中心として、ストレスチェックに関する研修会を積極的に開催して頂き、日医認定産業医の先生方、また資格取得を目指している先生方を対象に、制度や実際の業務内容についてお伝えしています。
 面接指導に関するマニュアルが厚労省から11月に公表されましたので、今後は、面接指導につきましても研修会を開催する予定ですので、ぜひご参加頂きたいと思います。

Q産業医の先生方に一言

A最後に、ストレスチェック制度実施に関しましては、事業場の状況を日頃から把握している先生方がストレスチェック及び面接指導の実施に直接関わっていくことが重要と考えており、産業医の先生方の役割はますます高まって参ります。制度の趣旨をご理解頂き、引き続きのご協力をお願いしたいと思います。
 なお、産業医の選任が義務付けられていない50人未満の小規模事業場のストレスチェックについては、実施自体はできませんが、結果に基づく面接指導は、依頼に応じて各地域産業保健センターでも無料で実施する体制が整えられる予定です。
 その他、ストレスチェックに関する疑問点等については、下記のような問い合わせ窓口がありますので、ご利用頂ければと思います。

問い合わせ窓口
今回のインタビューのポイント
  • ストレスチェック制度の目的は、労働者自身にストレスへの気付きを促し、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止することにある。
  • 日医では現在、ストレスチェック制度の周知を図っているが、面接指導に関する研修会も開催する予定なので、ぜひご参加頂きたい。
  • ストレスチェック制度の実施に当たっては、産業医の役割がますます重要になることから、引き続きのご協力をお願いしたい。

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