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平成29年(2017年)3月20日(月) / 日医ニュース

「思春期の子どものこころとからだを健やかに育むために」をテーマに

「思春期の子どものこころとからだを健やかに育むために」をテーマに

「思春期の子どものこころとからだを健やかに育むために」をテーマに

 平成28年度母子保健講習会が2月19日、日医会館大講堂で開催された。
 温泉川梅代常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(中川俊男副会長代読)は、社会全体で子育てしやすい環境を整え、未来を担う子ども達の健やかな成長を等しく保障するための施策が必要であることを強調。国においては「子ども・子育て支援新制度」が平成27年4月から始まったが、日医としても、妊娠期から子育て期に至るまで、切れ目ない支援をワンストップで受けられる体制の整備が図られるよう、積極的に政策提言を行っていくとした。
 続いて、中川副会長を座長として、基調講演2題が行われた。
 「母子保健対策10年の歩み」と題して講演した今村定臣常任理事は、「子ども支援日本医師会宣言」(平成18年)で掲げた、(1)妊娠を望む人たちへの支援、(2)より安全な妊娠・出産に向けての医療環境の充実、(3)子育てに関する社会環境の整備、(4)学校保健の充実、(5)障害児への支援―など8項目の進展状況を総括。(3)の子育てに関する社会環境の整備に関しては、虐待の予防と早期発見のための「子育て支援フォーラム」を開催してきた他、特別養子縁組あっせん事業にも取り組んできたことを報告した。
 また、平成16年の日医乳幼児保健検討委員会答申で提言され、検討を進めてきた「成育基本法」については、国会での早期法案提出を望んでいるとした。
 「思春期女性アスリートの健康管理」について講演した能瀬さやか氏(東京大学医学部附属病院女性診療科・産科)は、まず、「アスリート」の定義について、トップ選手だけでなく、競技会に参加している人全てを指すとした上で、ドーピング検査等の基礎知識を解説。また、①無月経②骨粗鬆症③利用可能エネルギー不足―という"女性アスリートの三主徴"を挙げ、疲労骨折の予防や競技生活後の健康のためにも、10代からの早期介入が重要であると指摘した。
 特に、三主徴の起点に関してはエネルギー不足にあるとして、運動量に見合った食事の重要性などを啓発するとともに、学校健診でスクリーニングを行い、受診につなげるシステムを構築すべきだとした。
 引き続き、「思春期の子どものこころとからだを健やかに育むために」をテーマに講演3題(座長:神川晃日医母子保健検討委員会委員・日本小児科医会副会長)が行われた。
 「思春期の子どもたち~子どもをBio Psycho Socialに捉え支援する 米国小児科学会のBright futuresを参考に~」と題して講演した田中恭子国立成育医療研究センターこころの診療部思春期メンタルヘルス科医長は、心のストレスが身体症状化しやすい思春期に見られる精神疾患の特徴や要因を解説。思春期は診療においてコミュニケーションの難しさがある反面、支援により変化が期待できるしなやかさもあるとした上で、身体の疾患・家族の不和・社会経済状況・不適切な養育環境など、発達課題の停滞に影響する因子に対して、Bio/Psycho/Socialの3つの視点からアセスメントすることを提唱した。
 また、米国の子どもの健康管理のためのガイドライン『Bright futures』から年齢ごとの具体的な観点を説明し、思春期においては家、教育、活動、薬、セクシャルなこと、自殺など、社会的な部分も含めてアセスメントしていく必要があるとした。
 「思春期の子どもに必要な性の健康教育」について講演した種部恭子富山県医師会常任理事・女性クリニックWe!TOYAMA院長は、10代の性交経験率や人工妊娠中絶率、出産数が下がっているデータを示す一方、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの普及を背景とした性被害や児童ポルノなど、子どもの性の搾取・性虐待が増えている点を危惧。性のトラブルを回避し、幸せな性を享受するためにも、性の健康教育が大切であるとの考えを示した。
 加えて、性交や避妊を扱わない日本の性教育を問題視し、「世界的には、エビデンスに基づいてまとめられたユネスコの包括的性教育の指針が用いられており、関係性、価値観、文化、人権なども含めた生き方を教える性教育が望ましい」と述べた。
 「思春期の心に向き合うプライマリケア」について講演した岡明東大医学部附属病院小児科長は、思春期は親から自立して仲間関係にシフトし、自我を形成していく時期で、非常に不安定な精神状態にあることから、特有の難しさがあると説明。うまく自立するためには、家庭に代わる学校、地域等の集団に帰属できるかが課題となるが、いじめなどの問題もあり、心の課題への対応として、そこに医療も関わっていくべきだとした。
 また、思春期の心の問題を、こじれたり、不適応状態になった後に専門医だけが扱うのではなく、プライマリケアの中で早期に相談を受け、学校や家庭などの環境を調節していく取り組みが必要であると強調。相談を受けるに当たっては、子どものみと面接して本人に語らせ、自ら考えて結論に至るよう支援することが大切であるとした。
 なお、当日の出席者は229名であった。

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