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平成29年(2017年)8月5日(土) / 日医ニュース

「赤ひげ大賞」を通じて地域医療のすばらしさを伝えたい

「赤ひげ大賞」を通じて地域医療のすばらしさを伝えたい

「赤ひげ大賞」を通じて地域医療のすばらしさを伝えたい

 離島や過疎地域などで地域住民に寄り添う医師の地道な取り組みに光を当てる「日本医師会 赤ひげ大賞」(主催・日本医師会、産経新聞社)が、創設されてから6年目を迎えた。
 今号ではそれを記念して行われ、6月30日付の『産経新聞』に掲載された、横倉義武会長と今回より特別協賛となった太陽生命保険株式会社の田中勝英代表取締役社長との対談の模様を紹介する。(聞き手:河合雅司産経新聞社論説委員)

 河合 「赤ひげ大賞」は、これまで計25人の"赤ひげ先生"を表彰し、多くの医師の励みとなる賞として育ってきました。改めてその意義を教えて下さい。
 横倉 私は平成24年に日医の会長になった際、地域医療の再興を一番に掲げました。国民に「大病院で受診するのが一番」といった考えがある中、地域医療こそが医療の原点であることを訴えたいとの思いがあったからです。しかし、過疎地域の医療は、だんだん手薄になってきているのが実情です。
 背景の一つに、地域医療に情熱を持っていた医師が高齢化し、後継者が育っていない事情があると思います。医療とは、病気を持った人の人生を共に歩むことに他なりません。その密着度は、地域になればなるほど濃厚になります。
 そういう意味で地域医療は非常にやりがいのある仕事だと思います。「赤ひげ大賞」を通じて、地域医療のすばらしさを国民の皆さんや若い医師に広く伝えていきたいと思っています。
 河合 太陽生命保険が、「赤ひげ大賞」を特別協賛することにしたのは、どのような考えからでしょうか。
 田中 これからの高齢者は退職してから何十年もの人生を過ごすことになり、介護や医療に対する不安が非常に大きくなっています。特に地方の場合、医師が近くにいないと非常に不安になります。
 そういった不安を解消するために何らかのお役に立てないかとの思いから、"赤ひげ先生"を応援させて頂くことになりました。
 河合 医師は病気を治すだけでなく、地域そのものを見守り、「安心」の根幹ともなっています。地域医療における医師のあり方についてどうお考えですか。
 横倉 医療のないところに、人は安心して住めません。医療を提供すると同時に、地域の活性化につながるような行動をしていくことが大事だと思います。
 私が子どもの頃は戦後の混乱期で、教育が十分ではありませんでしたが、地域では医師が子ども達の教育を担っている面もありました。地域の医師が生活支援を含め、しっかりと目を配っていけば、地域全体の安心感につながります。そうすれば、医療でまちづくりができるのではないでしょうか。
 河合 日本では医療費が膨張し財政面で危機的な状況にあり、更に健康づくりが重要視されるようになってきました。御社では健康づくりにどのように取り組んでいますか。
「赤ひげ大賞」を通じて地域医療のすばらしさを伝えたい 田中 昨年から、「太陽の元気プロジェクト」という名前で、社員の元気、お客様の元気、社会の元気の三つのカテゴリーに分けて20~30の取り組みを展開しています。
 社員向けのものとしては、山歩きをゆっくりすることによって血圧や血糖値を下げる効果が期待できるドイツ発祥の「クアオルト健康ウオーキング」への参加を推進しています。更には「太陽生命クアオルトアワード」を創設し、アワードを受賞した市区町村のコースの整備やガイドの育成を支援しています。
 また、働き方も変えようと、4月より60歳から65歳定年制に変更し、70歳まで継続的に仕事ができるよう雇用制度の改革を行いました。
 横倉 「クア」はドイツ語で温泉などを利用して療養するという意味ですよね。私もよく知っています。
 河合 御社は、業界で先駆的な認知症治療保険がヒットし話題になりました。発売の狙いは何だったのでしょうか。
 田中 一昨年から、70歳以上のお客様60万人強を対象に訪問したところ、医療や介護への関心が、以前とは比較にならないくらい高くなっていることが分かりました。中でも不安材料として挙げられたのが認知症でした。
 それならば認知症にならないようにして、もしなった後でも治療できる保険をつくろうと思い立ちました。昨年3月に売り出したところ22万件を超えるヒット商品になりました。認知症になった時の治療費を保障するだけでなく、まずは認知症にならないようにさまざまな情報提供をしています。
 横倉 生命保険と言えば、自身の亡き後、家族がちゃんと暮らしていけるようにするというイメージでした。時代とともに、生命保険に求められるものが変わってきたということなのでしょうね。
 田中 そのとおりだと思います。社会構造が変わってきて、生命保険の役割も変わってきました。少子高齢社会を迎え、生活の保障、自分が病気になったり介護状態になったりした時の保障という役割が確実に大きくなってきたと感じています。我々もお客様が求めている商品・サービスを提供していきたいと考えています。
 河合 政府だけでなく、医師会、生命保険会社、メディアを含め、民間のいろいろな職種が連携して取り組める、地域医療対策、認知症対策はたくさんあると思います。
 横倉 過疎地域には、長い歴史を誇るところも多く、平安時代から続いているような地域もあります。そこを、このまま終わらせていいのかという思いがあります。地域に戻る方向性を、社会全体がつくっていかなくてはいけないと思います。
 過疎化が進んでいる地域に安心して住めるように医療がサポートする。生活の支援ということで生命保険がしっかりサポートする。そして、そうした地域の良さをメディアを通じて知ってもらう。そうなれば、過疎化も止まるのではないでしょうか。
 河合 これからの地域医療には、どのような課題があると思いますか。
 横倉 医師には、高齢者が健康に長生きできるようにサポートする役割が、これまで以上に求められていくことになると思います。
 高齢になると、ちょっとしたことでも重症化します。そうした人をサポートする地域に密着した入院施設が必要となり、これが有床診療所や中小病院の役割になってきます。高度医療が全てだという社会から、生活に密着した形の医療提供体制に切り替えていかなくてはなりません。
 河合 治すだけの医療でなく、療養型の医療が増えていくと言われていますが、民間保険会社として国や地方に期待することは何ですか。
 田中 私達が期待するのは、病気の早期発見や予防につながる健康診断などの仕組みが地方で更に整備され、病気になる確率が下がることです。そうすることで国の財政にもプラスになります。その実現には、"赤ひげ先生"が多くの地方で活躍されているということが大事になってくると思います。
 河合 今後、「赤ひげ大賞」の役割として期待することを教えて下さい。
 横倉 地方にばかり目が行きがちですが、実は東京の真ん中にもいろいろな地域があります。また、社会的に弱い立場にある方々に対して一生懸命頑張っている医師をサポートしていく必要もあります。若い医師や医学生に、住民に密着した医療のすばらしさをどのように発信していくかが課題です。
 第5回表彰式にご臨席頂いた皇太子殿下が、当日参加していた医学生にいろいろなお話をされておられました。医学生達には、さぞかし励みになったことだろうと思います。地域の医師の世代交代をサポートするためにも、先輩医師の姿を、後輩にきちんと見せていけるような機会づくりや情報発信も大事になってくると思います。
 河合 これから地域医療を担っていく若い人へのメッセージをお願いします。
 田中 幸せに生きていくためには、いろいろなことが必要だと思います。最先端の医療に生きる医師もいれば、一人ひとりを診ながら患者の人生を見守る医師もいます。
 そういうことに情熱を傾けて、地域に暮らす人々がすばらしい人生を送ることができるよう努力している医師の姿を、若い人達にもっと見てもらえれば、地域医療の事情もまた変わってくると思います。そういったところにスポットライトを当てる「赤ひげ大賞」が、ますます地域医療を担う医師の励みとなる賞になっていって欲しいと思います。

田中 勝英(たなか かつひで)
太陽生命保険株式会社代表取締役社長
昭和29年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。昭和52年太陽生命保険入社。副社長営業本部長などを経て、平成23年から現職。
キーワード:「日本医師会 赤ひげ大賞」とは
 日医と産経新聞社が、地域に密着して人々の健康を支えている医師の功績をたたえて広く国民に伝えるとともに、次代の日本を支える地域医療の大切さを広報する事業として平成24年に創設。全国の都道府県医師会長からの推薦を受け、病を診るだけではなく地域に根付き、その地域のかかりつけ医として生命の誕生から看取りまで、さまざまな場面で住民の疾病予防や健康の保持増進に努めている医師の中から、選考委員会において毎年5名を選定し表彰している。
 江戸時代の小石川養生所を舞台に庶民の人生模様と「赤ひげ」と呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描いた山本周五郎氏の「赤ひげ診療譚(しんりょうたん)」にあやかって名付けられた。

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