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平成31年(2019年)3月5日(火) / 日医ニュース

「医師の地域偏在」をテーマに開催

「医師の地域偏在」をテーマに開催

「医師の地域偏在」をテーマに開催

 「医療政策シンポジウム2019」が2月13日、「医師の地域偏在」をテーマとして日医会館大講堂で開催され、地域偏在解消に向けた方策について活発な意見交換が行われた。
 参加者は、27道府県医師会のテレビ会議システムでの視聴者を含めて、合計436名であった。

 当日は、中川俊男副会長の司会で開会。
 冒頭あいさつした横倉義武会長/世界医師会(以下、WMA)前会長は、昨年7月に、医師確保、医師偏在対策に係る医療法及び医師法の一部が改正されたことに触れ、対策の実行に当たっては、国から地域に対して、丁寧な説明と的確な情報提供を徹底することが重要だとし、日医としても地域医療を守る立場から積極的に関わっていくとした。
 また、2月上旬に北海道紋別市を訪れ、医療機関等を視察したことを紹介。人口減少と医療職の不足が顕著で、市の中心にある約200床の公立病院では70床しか稼働しておらず、年間数億円の赤字が出ていること、眼科、耳鼻科、産科等の医師がおらず、出産や高度医療が必要な場合は約60キロメートル離れた北見市の病院に運んでいることなど、現状を説明。
 「地域偏在を考えると、何らかの仕組みによる適正な医師の配置、専門診療科がない地域における総合診療医の在り方やDoctor to Doctor(医師に対する専門医のコンサルトなど)のオンライン診療の在り方も考えていかなければならない」との考えを示した。
 続いて、中川副会長と石川広己常任理事が座長となり、講演に移った。

講演1「Physician-led Primary Care in the light of global Primary Health Care Policy And the Astana Declaration of 2018」

190305a2.jpg オトマー・クロイバーWMA事務総長は、まず、1978年にプライマリヘルスケア(PHC)に関する国際会議で採択されたアル・マアタ宣言について、「健康とは身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病のない状態や病弱ではない」というWHOの健康の定義を再確認し、"Health for All in the year 2000"を提唱したものであると説明。
 また、昨年10月にカザフスタンのアスタナで開催されたPHCに関する国際会議で採択されたアスタナ宣言にも触れ、同宣言ではPHCはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の中核的な要素であるとされ、医療従事者不足への取り組み、医療資源のより良い配分とPHCへの適切な財源の確保が求められているとした。
 その上で、PHCの普遍的な提供とUHCの実現のためには、政府や国際機関からの投資が必要であるとするとともに、投資の結果に対する説明責任に医療従事者は応えていかなくてはならないと指摘した。

講演2「人口減少日本で医療に起きること」

190305a3.jpg ジャーナリストの河合雅司氏は、「出生数と合計特殊出生数率の推移」や「出産年齢の女性数」等の資料を基に、今後、出生数の大幅回復の望みは薄いとするとともに、2043年以降は高齢者が減少に転じて人口激減期に入ることから、極めて人口の少なくなる地域で生活社会を機能させることができるのかを疑問視した。
 また、高齢社会の4大特徴として、①高齢化する高齢者②女性高齢者の増加③一人暮らし高齢者の増加④貧しい高齢者の増加―を挙げ、医師の高齢化や疾病構造の変化など、医療を取り巻く環境も激変するとした。
 更に、医療・福祉就業者数の見通しの甘さや、家族や支え手がいないために地域包括ケアが機能しない地域が出てくることにも懸念を示し、逆転の発想の下で「戦略的に縮む」という成長モデルとして、"まち"そのものをコンパクト化し、医療と共に暮らしがあるという地域モデルづくりによる偏在の解消を提案した。

講演3「わが国の医療が直面する課題―医師の地域偏在・診療科偏在と総合診療―」

190305a4.jpg 福井次矢聖路加国際大学長は、(1)わが国の医療の課題―OECDによる評価等、(2)地域偏在・診療科偏在―現状と厚生労働省の対策案、(3)求められる総合診療医、(4)総合診療への障害と展望―について説明した。
 (1)では、「社会保障制度改革国民会議報告書(2013年)」など、三つの報告書に示されたわが国の医療の課題を提示。(2)では、経年・地域別の「人口10万対医療施設従事医師数」等を示した上で、自身が構成員を務める厚労省「医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会」における議論を紹介。都道府県に医師の派遣調整等の権限を移すことには懸念を示した他、診療科偏在には、「診療分野ごとに必要医師数の算定方法を確立すること」や「専門研修開始時に(入り口で)、診療科ごとの上限を設定すること」等を提案した。
 (3)では、プライマリケアを担える医師について、米国の研究結果等を示しつつ、その有用性を、また(4)では、「大多数の現場医師(臓器別専門医、医学会の主流)の視点」と「公衆衛生・医療行政の視点」との差異を解消し、地域のニーズに最少数で対応できる「総合診療医」の普及をそれぞれ訴えた。

パネルディスカッション「医師の地域偏在」

 その後、武田俊彦厚労省政策参与が座長を務め、3名の演者に横倉会長が加わった4名によるパネルディスカッションが行われた。
 議論の中で横倉会長は、「地方で働く医師をサポートするDoctor to Doctorのオンライン診療や、第一線を退いた後に地方で働ける環境づくり等も考えていく必要がある」と述べるとともに、「歴史的に見ても、地域医師会が地域でのネットワークをつくり上げてきた。その存在意義を再認識し、地域医師会が中心となって、各地域のグランドデザインを考えて欲しい」とした。
 その他、「高齢化や医師の偏在といった問題は日本だけの話ではない。フランスなどでは、郊外に二つ目のオフィスを構え、ローテーションを組んで、週のうち何日か仕事をするような形もある(クロイバー氏)」「点在する患者を集合させ、暮らしの延長線上に医療がある形をつくるため、CCRC(Continuing Care Retirement Community:継続的なケア付きの高齢者達の共同体)といった住宅政策の検討も必要ではないか(河合氏)」「経済的なインセンティブといった評価の仕組みも必要だが、地域で働くやりがいや公衆衛生的視点を若いうちからマインドセットとして植えつけることができるかが最も重要ではないか(福井氏)」などの意見が出された。
 最後に、中川副会長が、「人口減少や高齢化といった課題も多いが、医療を資源の量に合わせるのではなく、例えば驚異的に進む技術革新等の力も借りて、皆で創意工夫し、明るい未来を切り開いていきたい」と総括し、盛会裏に終了となった。
 なお、本シンポジウムの記録集は、電子書籍(日医Lib)及び日医ホームページ上で、6月頃を目途に公表する予定。

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