日医ニュース 第868号(平成9年11月5日)

朝日新聞の事実誤認記事のその後の経過

 

 8月31日付の朝日新聞朝刊に掲載された「改革はだれのために・医療保険」と題する特集の記事に対し、日医は9月4日、同新聞社に対して抗議文を送付した。16日になって、同社の経済部長、同部記者(同記事の執筆者)、広報室副室長の三氏が、「面会したうえで、同記事について説明したい」といって来訪した。

 日医側は糸氏副会長、石川副会長、本吉常任理事が面談し、種々の資料をもって当該記事が憶測、曲解に基づく誹謗記事であることを強調した。これに対し、経済部長から、「記事の内容については、舌たらずの説明で誤解を招いたことは申しわけなく思っている。もちろん、日医を誹謗するつもりはない。今後は、建設的な記事を書くようにしたい」旨の発言があり、対外的な窓口になっている広報室長の同様な趣旨の釈明文書を提出した。しかし、記事の内容そのものについては撤回の意思はなく、双方が対立したままで、面談は終わった。

 そこで、日医としては、直ちに都道府県医師会に連絡し、各県所在の同新聞社支局への抗議行動を依頼するとともに、法的な対抗措置について顧問弁護士の意見を徴した。しかし、専門家の判断では、「残念ながら、日医を直接誹謗した明らかな文書がないため、名誉毀損の成立はむずかしい」との説明を受けた。

 ところが、9月29日付朝日新聞夕刊の「ウオッチ論潮」に、社会経済学者の松原隆一郎氏の手による「進む医療不信」と題する社会評論が掲載された。氏は、このような重大事を自分で調査したわけでなく、岩波書店発行の「世界(9月号、10月号)」に掲載されたルポライター岩上安身氏の「医療費値上げの前に必要なこと」という記事をそっくりそのまま引用していた。さらに驚くことには、その岩上ルポライターの記事の方も、一人の医療専門官Aの個人的推測にもとづいて書いたものであることが判明した。このような憶測記事を引用した学者やルポライターにも問題があるが、それよりも、そのような論説を安易に掲載した朝日新聞の姿勢こそが問題であると判断し、そこで、広報室を介して同社に対し、日医の見解を掲載するよう申し入れた。その結果、朝日新聞朝刊の「論壇」欄に、日医の医療保険改革に対する意見とともに、前述のような不正請求がまったく根拠のないことを明示することで合意に達した。