日医ニュース 第871号(平成9年12月20日)

坪井会長ホームページ

医療費4,200億円削減したら…


「坪井会長 ホームページ」は、月に1回実施している坪井会長の記者会見の様子などを紹介するコーナーである。今回は、11月25日に行われた会見のポイントを掲載する。

 

 今回の財政構造改革での医療費4,200億円の削減に関しては、積算根拠がはっきりせず、われわれとしては納得できるような主張ではない。その4,200億円を単年度で国民医療費に換算すると、だいたい1兆7,000億円ぐらいになる。今まで医療としてその1兆7,000億円でどういうものを国民に提供してきたのかというのが今回のシミュレーションである(表)。

 まず、1兆7,000億円というお金は、国民1人当たりの国民医療費を21万円とすると、約800万人分の医療費に相当する。それから人件費として計算すると、医療従事者43万人分となる。したがって、単にここだけを節減するとすれば、医師の場合、勤務医を含めて12万4,000人分の人件費の削減に相当することになる。今、医師全体の数が約23万人だから、約半分強の人件費が削減されるということである。看護婦の場合、約50万人の人件費に相当する。これは読み方によると、医師が12万人、看護婦が50万人失業すると読めないでもない。

 平成7年度の手術の費用が1兆3,000億円であるから、すべての手術が日本からなくなる。また、画像診断が受けられなくなる数値という意味である。

 4,200億円の医療費を節減するにあたっては、国民にそれだけの医療サービスの量ならびに質を削減せざるを得なくなる。それに対して、「国民のみなさんはどういう納得の仕方をしますか」という呼びかけをわれわれはしていかなければならない。国民が納得して応じるということであるならば、あえてわれわれは何もいわない。

 厚生省だけではなく、その他の各省庁も削減をしているわけだが、その削減の対象となるものが質的に違うということを理解してほしい。聖域を置かないということで、土木事業と社会保障、あるいは医療を一緒に考えて論議が進んでいるが、それは話にならない。

 われわれは、社会保障とか国民の健康を守る医療というものは、あくまでも国家予算のなかでは聖域であると考えているので、その主張はこれからも貫いていくつもりである。

 


 

表.医療国庫負担4,200億円が削減されるとどうなるか

〜国民医療費換算1兆7,355億円の規模は〜

  1. 国民のうち、約800万人が医療を受けられなくなる。

    (参考) ※国民1人当たり国民医療費=21万4,700円(平成7年度)

     

  2. 医科医療従事者が多数失業する。

    1)医療従事者全体の場合:医療従事者のうち、約43万人が失業する。

    (参考) ※1人当たり平均生産高=838万円 ※人件費率=48.5%

        ※1人当たり平均人件費=406万4,300円

    2)医師の場合:勤務医師のうち、約12万4千人が失業する。

    (参考) ※病院勤務医師の平均年間人件費=1398万2,000円。

    3)看護婦の場合:看護婦約93万人のうち、約50万人が失業する。

    (参考) ※看護婦の人件費総額の、国民医療費全体に占める割合=12.0%(3兆2,349億円)

     

  3. 手術が全く受けられなくなる。画像診断も全く受けられなくなる。

    (参考) ※手術に関する費用  =1兆3,200億円(平成7年度)

        ※画像診断に関する費用=1兆2,936億円(平成7年度)

     

  4. 14歳以下は全て一般診療が受けられなくなる。

    (参考) ※14歳以下の一般診療医療費=1兆3,910億円(平成7年度)

     

  5. 呼吸器系疾患に対するほぼ全ての一般診療が、あるいは新生物に対する一般診療の約75%が受けられなくなる。

    (参考) ※呼吸器系に対する一般診療医療費=1兆8,179億円(平成7年度)

        ※新生物に対する一般診療医療費 =2兆3,228億円(平成7年度)

     

  6. 入院中の食事が全て自己負担となる。

    (入院中の食事に対する自己負担:現行760円/日→2,880円/日)

    (参考) ※入院時食事医療費=1兆801億円(平成7年度)

        ※1日当たりの食事料(保険請求分)=2,120円

        ※1日当たりの食事料(自己負担分)=760円

     

  7. 老人保健施設での費用、訪問看護の費用が全て自己負担となる。

    (老人保健施設での自己負担:現行約4万円/月→約30万円/月)

    (老人訪問看護に対する自己負担:現行250円/回→約9千円/回)

    (参考) ※老人保健施設療養費=3,385億円(平成7年度)

        ※老人訪問看護医療費=187億円(平成7年度)

     

  8. 公費負担医療給付(生活保護、母子保健、結核予防など)が、全く受けられなくなる。

    (参考) ※公費負担医療給付分=1兆2,953億円(平成7年度)

        ※医療扶助人員=67万9,826人(平成7年度)

     

  9. 高額療養に対する上限額がなくなる(高額療養費が支払われなくなる)。

    (参考) ※高額療養費=6,252億円(平成6年度)

     

  10. 患者負担分が現行の1.5倍から2倍になる。

    (参考) ※現行患者負担額  =2兆7,831億円

        ※削減後の患者負担額=4兆5,186億円

(日医総研)


図.国民医療費における診療行為別費用の占める割合

(出典:平成7年6月審査分 社会医療診療行為別調査報告)

 

 

図.国民医療費の流れ

(出典:1997年度版医療白書)

 

 

図.財源別国民医療費の状況

(出典:平成7年度 国民医療費)

 

 

 
国庫負担金を4,200億円減らすことは…

平成5年度の、国民医療費に対する国庫負担金の割合は、24.2%。

このような状況下で、国庫負担金を4,200億円減らすことは、国民医療費に換算すると、

 
国民医療費換算額=4,200億円/24.2%≒1兆7,355億円

に相当する(国民医療費の約6.4%に相当)。

 


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