日医ニュース 第875号(平成10年2月20日)

坪井会長ホームページ

時代に適応した「学校保健」への転換を


 「坪井会長 ホームページ」は、月に1回実施している坪井会長の記者会見の様子などを紹介するコーナーである。今回は、2月3日に行われた会見のポイントを掲載する。

 

医療費国際比較調査

 本日発表する「医療費国際比較調査」は、日医総研の第4番目の報告書である。

 これは、社会の変革期において、日医の今後の医療政策をかたち作るうえで役立つ情報の収集を目的に、日本をはじめ、アメリカ・ドイツ・フランス・シンガポール・台湾の6ヵ国について調査を行ったものである。調査項目は、診察料・入院料・注射手技・処置料・検体検査・画像診断・手術料・薬剤価格について代表的なものを選択した。その結論は、次のとおりである。

1)わが国の診療報酬は、ドイツ、台湾よりは高いが、フランスやシンガポールよりは若干安く、アメリカの数分の一。

2)ドイツは医療保険制度の変革の真っ最中であり、ルールの改廃が頻繁で、外部からはわかりにくい状況となっている。医療費は非常に厳しく抑え込まれていく傾向にある。

3)アメリカの医療費は突出して高く、これを引き合いに出して自論を構築することには限界がある。今後、保険者側からの低廉化の圧力がますます強まると思われる。

4)フランスは偶然、わが国と似たところがある。医師の裁量権や患者の医師選択の自由を守る論理は参考になろう。

5)シンガポールは診療報酬の体系にアメリカ式を採用しているようだ。「まるめ」や一律料金といったものが少ないのがその特徴。

6)薬剤の価格(患者に対する請求額)は、おおむね、アメリカ、ドイツ、イギリス、シンガポール、フランス、台湾の順に安くなっているが、日本はシンガポールとフランスの間に位置する。必ずしもわが国で高いとはいいにくい。ただし、特定の薬剤についてはある国で著しく高かったり、安かったりする。

 アメリカの高医療費、診療報酬の高さを考えるとき、DRG(diagnosis-related groups診断関連グループ)、PPS(prospective payment system事前決定方式)の問題がある。今、日医総研では、この問題を含めて診療報酬体系のあり方についてプロジェクトを組んで検討している。いずれ、日本の医療費政策のなかで、DRG、PPSというものが、どういう評価を受けるべきかという、われわれなりの結論を出すことになるが、今回の調査結果が、その参考になればと考えている。

 DRGそのものは医療費を節減するという方法論ではないが、高医療費政策のなかに取り入れられているアメリカ方式を、現在の日本の医療費政策のなかに直接に持ち込む必要はない。われわれは非常に成熟した制度として、皆保険制度を持っているので、われわれが考えている医療構造の抜本的な改革で十分に対応し得る。

 今回の国際比較調査は、われわれに有利な資料だけを拾い上げたということではなく、調査を公平に行い、マイナスのデータも公にして、そして、そのデータを活用しながら、今後の正当な主張を展開していきたい。

 

補助金の一般財源化

 平成10年度から、がん検診に関しての国庫補助が地方交付税に切り替わることになったが、検診事業を有効と認め、その事業を推進していく立場からすると、憂慮すべき事態にある。地方自治体がその財政を左右することになると、経済状況、あるいは地域の特性等に大きなばらつきがあるため、がん検診を廃止することも当然考えられる。

 やはり、がんそのものは、早期にみつけ出すことによって、治療効果が拡大し、国民の生命を守ることができる。「何となく効率が悪いから予算を切りますよ」という単純な話ではない。

 効率のよいがん検診、例えば、胃がん、子宮がん、あるいは大腸がんに関しては有効性が高いので、こういうものは、おそらく地方自治体も検診をすることにそれほど抵抗はないだろうが、その他の肺がん、乳がん等効率が悪いといわれているがん検診については、今の状況からすると、縮小の方向に移行する可能性がある。

 日医としては、医療構造改革構想のなかで、一次予防、二次予防といういわゆる予防医学が、将来の医療の主役になるという主張をしている。その観点からすると、今回のがん検診の廃止論につながりかねない状況に対しては、しっかりとした理論立てをして、国民のために警告していかなければいけない。

 


診察料

 

  初診料 再診料
日本 2,500 1,120
アメリカ 8,256 4,472
ドイツ 1,556 294
フランス 2,867 2,867
シンガポール 1,861 1,861
台湾 960 960

購買力平価換算(円)

 

 

・アメリカは共にレベル1(初診料10分、再診料5分)の下限を採用
・ドイツの初診料は内科(家庭医)の料金を採用
・フランスは一般医の料金を採用
・シンガポールは一般医のレベル1(初診料10分、再診料5分)を採用
・台湾はクリニックの1医師当たりの1日患者数が50人以下の料金
・アメリカの高さが突出している
・フランス、シンガポール、台湾は初診料と再診料が同一

 

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