日医ニュース 第934号(平成12年8月5日)

日医総研フォーラム9
製薬会社の経営実態の分析(1)
(平成11年度決算短信から)

 相次ぐ薬価引き下げにもかかわらず,製薬メーカーは高利益を維持しており,医薬品業界のなかで独り勝ちを収めているともいわれています.しかし,本当のところはどうなのでしょうか?その実態を検証するため,日医総研では,先ごろ公表された各社の1999(平成11)年度の決算短信をもとに製薬会社の経営実態の分析を行いました.今回から3回シリーズでそのサマリーを報告します.
 第1回.上位製薬メーカーの位置付けと卸との関係
 第2回.企業別の財務指標の比較
 第3回.外国企業との比較,製薬メーカーの総合力

第1回 上位製薬メーカーの位置付けと卸との関係

上位15社は1,000億円以上の売上高
 今回,分析の対象としたのは,前年度(1998年度)の医薬品部門売上高が国内上位15位までの上場企業である.1998(平成10)年度の国内医薬品市場は厚生省の調査によると約7.1兆円であり,このうち分析対象の15社は45%のシェアを占めていた.
 1999年度からは,決算が子会社を含めた連結ベース主体で公表されるようになったので,分析でも連結決算の数値を用いている.連結ベースでの医薬品部門売上高は,武田薬品が6,798億円,三共が4,562億円で,15社はすべて1,000億円を超えている(図1).

上位企業の売上高総額は4.2兆円,GDPの1%
 15社の売上高(医薬品部門以外を含む)をすべて合計すると,単独ベースで3.9兆円.また,萬有製薬が連結決算を公表していないので,これを除く14社の合計になるものの,連結ベースでは売上高総額が4.2兆円に達する.1999(平成11)年度の実質GDP(国内総生産)が482兆円であったので,14社がGDPのちょうど1%分を生産していることになる.

経常利益総額は9,000億円,国民医療費の3%
 また,同じように連結ベースで14社の経常利益をすべて合算すると8,734億円(図2).9,000億円に手が届く規模である.この3年間で経常利益総額は25%増加しているので,1兆円を超える日も遠くはなかろう.
 さて,この9,000億円というのはどのくらいの大きさなのか.現在,国民医療費は約30兆円である.つまり医療機関に年間30兆円支払われている.そこから9,000億円の利益を挙げるとすると,医療機関が平均して3%の売上高経常利益率を確保することと同じ,と見ることができる.別の視点で,全国9万の診療所で置き換えてみよう.9,000億円というのは,9万診療所がすべて年間1,000万円の経常利益を挙げる規模に匹敵する.また,図2の経常利益総額のグラフにR幅の推移を併記した.時系列で見ると,「R」が下がるほど,製薬メーカーの経常利益が増加することが明らかである.

製薬メーカー対卸,利益配分は9:1
 医薬品業界のなかで,特に卸との関係においては,製薬メーカーはどのような位置付けを占めているのだろうか.
 医薬品メーカーでは,製薬メーカーの売上高経常利益率の平均が18.4%であるのに対し,大手卸の経常利益率は1.3%,中堅卸に至っては,なんと1%を切っている.大まかにいって,製薬メーカーと卸との利益配分は9:1である.一般に,卸は利ざやが薄いといわれるが,それだけで片付けられる差であろうか.
 全産業の平均を見てみると,製造業平均の経常利益率が3.3%.これに対して,卸・小売業平均は1.3%であり,利益配分は7:3である.また,卸売業者を活用するケースの多い食料品業界を見ても,利益はメーカー対卸でおおむね6:4で配分されており,医薬品業界の構造とは大きな違いがある.他の産業と比べ,医薬品業界は特に製薬メーカーの利益の取り分が多く,メーカーが卸に比べて利益面で圧倒的に優位な業界構造になっている.

「R」が下がるほど卸の粗利も低下
 製薬メーカーと医薬品卸との力関係の差は,薬価引き下げの影響をどの程度受けるか,という点にも現れている.
 ここ最近では,平成8年度以降,平成9年4月に4.4%,平成10年4月に9.7%,2年連続して薬価引き下げが行われている.しかし,この2回の薬価引き下げに連動して,製薬メーカーの売上高が低下した年は1度もない.
 一方で,卸はどうだろうか.医薬品卸売業界では,大手が中小を吸収合併する動きが活発であり,そのせいもあって大手卸は着実に売上高規模を拡大している.一見したところ,薬価引き下げの直接的な影響は見受けられない.しかし,売上高以上に売上原価,つまり製薬メーカーから仕入れる商品コストが増加しているのである.
 また,売上原価率も上昇している.4年前には大手卸の売上高原価率(売上高に対する仕入価格の割合)の平均は86.6%であったが,1999(平成11)年には88.6%に達している.なかには売上高原価比率が90%を超え,粗利ですら10%を確保できていないところもある.また,製薬メーカー経常利益は「R」が下がるほど増加しているが(図2),これと正反対に,卸の売上原価率は「R」が下がるほど,上がる傾向にある.製薬メーカーとの関係において,卸の生き残りはますます厳しくなりそうだ.

業界全体で見ると優位にある製薬メーカーですが,個別の企業はどうなのでしょうか.次回は,企業別の財務指標を見ながら,製薬メーカーの「勝ち組み」と「負け組み」を探っていくこととします.

 詳しい分析資料は,日医総研ホームページ(http://www.jmari.med.or.jp/)でご覧になれます.「資料・読み物」のコーナーから「日医総研ワーキングペーパー」を選んでください.


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