日医ニュース 第936号(平成12年9月5日)
日医総研フォーラム10
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前回は,売上高が上位の製薬メーカーについて,全体の規模と卸の関係について述べました.今回は,主な財務指標を見ながら,企業間の格差を探っていきたいと思います. |
第2回 企業別の財務指標の比較 |
経常利益率は高い.しかし,株主にとっての魅力度は明暗(収益性)
(1)売上高経常利益率
売上高経常利益率は10%から20%程度であり,平成9年度以降,年々上昇する傾向にある.上位は,武田薬品,三共,山之内製薬,3年連続で増加したのは,武田薬品,山之内製薬,田辺製薬である.一方,旧ミドリ十字と合併したウェルファイド(旧吉冨製薬)は3年連続で経常利益率を低下させているが,それでも8.1%,産業全体の2〜5%と比べるとまだまだ高い.
(2)株主資本税引き後利益率
株主資本税引き後利益率は,自己資本をもとに,最終的にいくらの利益が得られたかを示している.自己資本は,資本金,法定準備金,剰余金からなっていることから,株主にとって直接意味のある指標である.武田薬品,山之内製薬,藤沢薬品の税引き後利益率が2期連続で向上,なかでも藤沢薬品は2年前には赤字であったが,大きく挽回して利益率順位で3位となった.一方,エーザイは2期連続減少して下から2番目となり,株主にとっての魅力度が低下しつつある.また,昨年から比べると,三共が大幅減となった.これは,商品の販売中止による整理損を特別損失として計上したためで,製薬業界のリスクの大きさを表している.
安定感ではかなり優れる製薬各社(安全性)
(1)流動比率
流動比率は,近い将来に支払いが発生する負債(流動負債)を払うために,現金化できる資産(流動資産)がどれくらいあるかを示している.流動負債の2倍の流動資産があれば,いざというときに負債を返済しても手元に十分な現金が残ることから,200%以上あることが好ましいといわれている.
上位製薬メーカーでは,ウェルファイドと兼業の協和発酵を除いて,現在,すべて200%以上である.ウェルファイドは平成10年4月にミドリ十字と合併しており,単純に時系列の比較はできないものの,合併の難しさがうかがえる.
(2)自己資本比率
自己資本比率は,総資本に占める自己資本の割合である.この比率が高いほど,他人資本が少なく,借り入れに対して支払う利子が小さい.それだけでなく,他人資本が少ないと,返済金額や返済期限の縛りが少ないわけであり,その分,投資など意思決定の自由度も高まる.上位製薬メーカーでは,半数以上の企業の自己資本比率が,過去3年間連続して向上した.現在の自己資本比率も各社50%以上であり,産業平均が30%台であるのに比べ,かなりの高水準である.
小回りを効かして効率のよい企業と,やや動きの鈍い企業(効率性)
(1)総資本回転率
総資本回転率は,つぎこんだ資本からどれだけの売上が上がったかを示したもので,同じ資本の額でも,仕入,生産,販売を活発に行い,より多くの売上高を上げたほうが効率的であるとみる.この指標が2期連続で向上しているのは,塩野義,第一製薬,藤沢薬品である.特に,最も高い塩野義の回転率は0.94回であり,1年間でほぼ総資本に等しい額の売上を上げている.
(2)売上債権回転月数
売上債権回転月数は,売上債権を回収するまでにかかる月数である.もちろん短いほど良い.3年連続して低下しているのは,武田薬品,中外製薬であるが,それでも武田薬品で3.1カ月,中外製薬で4.1カ月かかっており,平均して3.7カ月の長さに及んでいる.なかには山之内製薬のように3カ月を切っているところもあることから,この長さは業界特性とばかりはいい切れない.5カ月近い大日本製薬などでは,急な資金需要に対応できない恐れもある.
個別の財務諸表を見ていくと,同じ業界であっても,特に好調な企業と苦戦している企業があることが分かります. ここまでは,国内での位置付けに注目してきましたが,外国企業と比べるとどうなのでしょうか.また,将来もこのまま好調を持続できるのでしょうか.次回(最終回)は,外国企業との比較,そして,製薬メーカーの総合力について報告します. |
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