日医ニュース 第952号(平成13年5月5日)

日医総研フォーラム15
医療の経済波及効果

 医療・介護サービスの制度的将来像に示す「医療費の検証」として,今回は,産業/経済としての医療の検証を,経済波及効果の観点から行った.
 なお,今号ではまず検証の視点ならびに経済波及効果分析の構図について述べさせていただく.

(1)検証の視点

 ここで行った検討は,「医療は本当に投資効果の得られない弱い産業なのか」,また,「医療への投資は雇用を拡大させないのか」どうか,さらには,「医療は税金を使うだけの産業か」といった問題意識から行った.
 すなわち,これまで「国民医療費」として把握されている費用については,その毎年の費用の大きさや増加額・増加率の高さのみが指摘されていて,それが果たす経済的側面,特に医療・介護と関連の深い産業での生産活動や雇用者の創出といった経済効果は,ほとんど認識されてこなかった.
 しかし,医療・介護等に投下される費用が果たす役割は,国民の求めるさまざまな医療・介護サービスを提供するだけでなく,その経済効果も非常に大きなものがある.
 そこで,将来(2015年)想定される医療介護費が費やされた場合(これを経済的には「最終需要」と呼ぶ),これに伴って発生する産業活動(生産誘発額)や雇用(従業員誘発数)・税収(税収誘発額)等の経済効果を,「平成7年(1995年)産業連関表」(総務庁)を用いて予測し,将来の医療費がわが国の経済面で果たす役割の大きさを明らかにしたものである.


(2)経済波及効果分析の構図

  1. 予測年次
    予測年次は,2015年の将来医療費を前提として検討した.
  2. 将来医療費
    経済波及効果を検討するために,将来の医療介護費を,別途予測されている2015年の国民医療・介護費56.1兆円に,医科自由診療費3.5兆円,歯科自由診療費0.6兆円を加えた合計60.2兆円として検討した.
    ちなみに,1996年(現状)の国民医療費は,30.3兆円である.
  3. 将来の国内総生産(GDP)
    医療費の経済効果を相対的に比較するために,将来の国内総生産(以下GDPという)を想定した.
    ここでは2010年までのGDP成長率を実質年率1.5%程度と想定し,2015年のGDPの額を670兆円と想定した.
  4. 予測の方法
    1. 産業連関表を用いた予測
      経済効果は,前述の産業連関表を用いて予測した.
      産業連関表とは,日本国内を中心に,1年間にそれぞれの産業が生産した財貨(生産額等)や用役(雇用者数等)が,各産業相互間にどのように配分されたかを統一的につかむために,行列(マトリックス)の形で表示したものである.
      そして,これを加工すると,どの産業にどれほどの消費とか投資(最終需要)が増えたら,他の産業にどれだけの生産・雇用が最終的に生じるかを予測することができる.
    2. 推計の基本的構図
      いま少し具体的に経済波及効果の構図をみると,まず将来医療費60.2兆円に伴って発生する直接的な生産額(販売額とか売上額に相当)を求め,このうち「中間投入額」(医薬品・材料等の購入費,諸経費,医業外費用等から構成される)に相当する費目が次の生産額に波及するものとし,こうして次々に繰り返しの予測を行い合計したものが,生産誘発額の予測である.
      一方,販売額とか売上額といった生産額のうちの「粗付加価値額」(売上から変動費を引いた残りで粗利益に近いイメージで,人件費,交際費,減価償却費,経常利益等から構成される)に相当する額を,同様に繰り返し予測し合計したものが,波及する粗付加価値誘発額である.
      そして,将来医療費だけから経済効果を予測するだけでなく,関連する産業に従事する従事者の家計消費も経済効果として重要であることから,従事者所得のなかから家計消費支出がさらに消費(最終需要)に向けられるものとして,これを3次まで推計することによって前記の誘発額を予測した.
      また,同時に,予測された従事者所得額の合計から,各産業ごとに年間平均一人当たり所得を用いることにより,関連する各産業ごとの従事者数も合わせて予測した.

 次回は,経済波及効果の検討結果,各種経済波及効果の評価について述べさせていただくが,今号では,「経済波及効果の検討結果」において現状の1996年における経済波及効果と,将来の2015年における経済波及効果の推計結果を併せたものを,図1に示し次回へ続くこととしたい.

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