日医ニュース 第987号(平成14年10月20日)
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近年,わが国は“麻疹輸出国”という誠に不名誉なレッテルを欧米諸国より貼られている.確かに,成人の発病率も上昇傾向を示し,乳幼児の死亡も今なお毎年二桁を下らない.
しかし,その主因は,いずれもワクチン接種体制の不備によるもので,その改善こそ,第一に取り組まなければならない施策である.
まず,乳幼児対策としては,麻疹発病のピークが一歳児にあることから,現行法下では一歳になったらできるだけ早期にワクチン接種を実施し,しかも,その接種率を九五%以上に上げることが大切で,日医でもポスターを作り,その推進に積極的に取り組んでいるところである.
現行法では,麻疹ワクチンの接種は,母体より移行する抗体保有期間として十二カ月までを除外しているが,実際には〇歳児のり患率は一〇数%を超え,しかも,重症例も少なくない.その原因としては,母体自身が若く未接種者であったり,接種していてもその子の抗体価の保有が十二カ月持たずに急激に降下してしまうものがかなり多いこと等が考えられ,これを放置するわけにはいかない現状にある.
いずれワクチンの早期接種と接種率の向上が進めば,一歳児の感染ピークが抑えられ,そこからうつされる機会も減り,〇歳児のり患も防げることになろうが,ここしばらくはなんらかの対策が必要であろう.
〇歳児への麻疹ワクチン接種については,その確実性を考えれば,現状では二回接種が必要というやっかいな面があるが,できれば,九カ月以降の一回接種のみで十分確実で安全なワクチンの開発が可能であれば理想的で,厚生労働省研究班に要望し期待しているところである.
成人対策としては,未接種者を中心とする麻疹感受性者への対策が,まず大切である.特に,現在,海外で活躍することの多い十歳代後半より三十歳前半の年代は,ワクチンの接種率も六〇〜七〇%前後と低く,成人麻疹の発生の大半を占めているもので,このなかの麻疹感受性者もおよそ八十万人程度いると推計されている.
しかし,問題はこの麻疹感受性者の確認が簡単にはできないことで,早急な方策としては,その年代で海外出張や長期の旅行を計画している者は,確実に麻疹にり患した者以外,まずワクチン接種を受けて行くことを推奨する.
いずれにしても,麻疹を早急に根絶し,“麻疹輸出国”の汚名を返上したいものである.