日医ニュース 第991号(平成14年12月20日)

坪井会長
3割自己負担の実施凍結に向けて

 坪井栄孝会長は,十一月二十六日の定例記者会見において,被用者保険三割自己負担の実施凍結に向けての活動を宣言した.これは,全国医家市長会総会(全国の医師である市長の集まり,現在会員十二名)で決議された「医家市長会声明」(別記事参照)を,一般住民の意思を十分に反映したものと認識し,強く受け止めた結果である.今後は,三割自己負担の実施凍結に向け,医師会を挙げて具体的な行動を展開していくことになった.坪井会長の発言の要旨は次のとおりである.

国民負担回避のためにマイナス改定容認

 本年四月の診療報酬改定において,われわれは二・七%のマイナス改定という今まで経験したことのない,前代未聞の政策を容認した.
 その際,二・七%のマイナス改定をしたことによって出てくる財源は(私は付加価値を入れて一兆円はあると思っているが),公式には六千億円といわれている.この財源を使うことによって,「国民の負担を増やすことは避けてほしい.三割負担には絶対反対である」という主張を続けてきた.
 それにもかかわらず,三方一両損の名のもとに,三割負担導入が決定してしまった.われわれとしては,いかなる手段を使ってでも,これを撤廃させなければならない.その際には,ただ反対だと主張するのではなく,科学的なデータを用いて,反対していかなければならないと思っている.
 そこで,今回,日医は,政管健保の事業運営安定資金残高を試算してみた.
 政管健保については,すでに十年前から,その運営に関して,いっそうの努力をすべきであるという議論をしてきたが,まさに野放し状態で今日を迎えてしまった.このリスクが,今年の診療報酬のマイナス改定に結び付けられたといっても過言ではない.
 政管健保が安定しさえすれば,日本の保険行政は安定するといわんばかりに大騒ぎをした政管健保の財政収支に関して,診療報酬のマイナス改定によって,どの程度の修復効果があるのかということを試算したのが,資料である(図)

マイナス改定によって政管健保は黒字

 事業運営安定資金に関しては,二○○二年度からでもすでにプラスに好転する.そして,二○○三年度からは単年度収支もプラスに好転し,二○○四年度には事業運営安定資金で一兆三千億円のプラス,単年度収支で六千百二十九億円のプラスとなるということがわかる.
 いずれにしろ,最も深刻で,三割負担導入の根拠とされた政管健保の収支状況は,われわれが受け入れたマイナス改定によって,これだけの改善効果があるということが明らかとなった.
 この試算数値をみても,国民の負担を今回三割に増やす必要はなかったのではないか.また,高齢者の上限撤廃をして,さらなる負担をかけるという必要もなかったのではないだろうか.したがって,われわれは,そのすべてを撤廃すべきであると考えている.
 一度成立してしまった法律だから即時に撤廃することはできないということでもめるのであれば,ペイオフが二年間延びたように,現在この問題についても先送りにするべきであるという主張をしている.これからも強烈に主張し,国民の負担をこれ以上増やすことのないようにしていきたい.
 日医がこういう主張をすると,受診率が減って,自分たちの収入が減ってしまうからであろうと邪推されがちであるが,決してそういう次元の低いことではない.国民生活の安定のために,さらには,将来への経済的な不安を取り除くために主張をしているわけで,われわれは,断固として戦わなければならないと考えている.

一般住民の意思を反映/3割負担撤廃か凍結

 今回の全国医家市長会から出された声明は,われわれの主張と根本的に同じものであると考えている.本日の常任理事会にこの声明を報告し,その席上,このアピールをわれわれとしても是とするということになった.
 一般住民の感触というのは,その地域で実際に行政を担当している市長さんたちに直接はね返ってくるわけであり,われわれは,一般住民の意思を知るには,市長さんたちの声が最も良い指標であると考えている.
 したがって,本日の会見は,単にこの声明を医家市長会から受け取ったというだけではなく,この声明を日医として十分に認識し,これを強く受け止めて,今後の医政活動,特に,具体的な問題である三割負担の来年四月施行を凍結する,さらには,これを撤廃するための主張を続けていくということをここで宣言する意味の記者会見である.

政管健保の事業運営安定資金残高
政管健保の事業運営安定資金残高

政管健保の事業運営安定資金等の推移

  1. 2001年度の政管健保の決算は,単年度収支で4,710億円のマイナス,事業運営安定資金残高は5,071億円のプラスであった.
  2. 2002年度の予算編成時に厚生労働省は,政管健保の収支見通しを立て,単年度収支で7,782億円の赤字,事業運営安定資金も1,812億円のマイナスとした.これが3割負担導入の根拠とされた.
  3. しかし,診療報酬の引き下げや,それに伴う受療自粛等により,医療費の状況は大きく変化した.状況変化を折り込んで平成14年度値を推計すると,単年度収支は3,162億円の赤字となるが,事業運営安定資金は1,909億円のプラスを維持する.事業運営安定資金ベースで見ると3,721億円改善することになる.
  4. 2003年度になると総報酬制による保険料徴収が開始される.その効果等により,単年度収支は4,995億円の黒字となり,事業運営安定資金も6,904億円のプラスとなる.
  5. 2004年度に入ると,対象年齢引き上げ効果による老人保健拠出金の削減が本格化する.その効果等により,単年度収支は6,129億円のプラスとなり,事業運営安定資金も13,033億円のプラスとなる.
  6. 2002〜2004年度の3年間で,事業運営安定資金は1.5兆円改善されるため,3割負担導入の必要性はない.
  7. その後の2年間(2005年度・2006年度)についても,2001年度並みの給付等の伸びがあったとしても,事業運営安定資金はさらに約1.2兆円増加し,向こう5年間を展望しても3割負担導入の必要はない.



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