日医ニュース 第996号(平成15年3月5日)
視点 |
臨床研修義務化と女性医師 |
医療界に新しく参入する国家試験合格者に占める女性医師の割合が年々増加し,三〇%を超えて久しい.今後はさらに増加の方向に進むと予想されているが,これからの医療提供体制はこれらの女性医師を確実に取り込んで形成されねばならないのは火を見るより明らかである.
昨今の少子化には何とか歯止めをかけたいと,国は種々の施策を講じてきたが,出生率は下がる一方.価値観の多様化と,労働人口の減少,経済不況のなかで地位の安定を求めるならば,キャリア志向は当然の結果で,女性医師の増加もその一端と受け止められなくもない.女性にとって,そのキャリアの基礎固めの時期がちょうど出産育児と重なるのが問題である.社会を次世代に繋ぎ安寧を計るには,出生率の低下は重大事で,出産育児は一個人の問題ではなく,それは正に社会的義務の履行,あるいはむしろ立派な社会貢献と見なしても良いくらいであろう.
さて,平成十四年十二月,医師法の一部が改定され,臨床研修に関する省令が発せられた.その第十六条に臨床研修の中断および再開について規定されているが,中断時,研修病院管理者はそれまでの研修内容や評価,中断の理由等を記載した臨床研修中断証を交付することとなっており,再開時には,研修病院はその証の内容を考慮した臨床研修を行わなければならないとされている.すなわち,臨床研修は,中断によりそれまでの研修が無になり,再開時は最初からやり直すのではなく,それまでの内容に追加する形で継続することが可能ということである.
中断の理由や期間についての詳細は今後つめてゆくことになると思われるが,日医病院委員会の中間とりまとめ「地域における臨床研修と医療連携について」のなかで,研修医の処遇に関し,「研修医の傷病等による履修の中断や,女性医師の産休などについては,研修医の身分保障の観点から一定のルールによって適切に対応されるべき」として,中断理由とその処遇について提言をしている.
かくして,少しずつではあるが,女性医師の抱える出産育児に関する問題解決へ向けての歩を進め,女性医師を確実に医療提供体制のなかに組み込み,なおかつ,その質の向上に繋げたいと願うものである.舞台はようやく整わんとしている.医師としての使命感と社会人としての覚悟を持って舞台に上り,それぞれの役を務められるよう念じている.