日医ニュース
日医ニュース目次 第1005号(平成15年7月20日)

青柳副会長 3つの宣言と7つの改革
「財務省のシナリオにすぎない」
経済財政諮問会議「基本方針」に対する日医の見解

 政府の経済財政諮問会議(議長:小泉純一郎首相)は6月26日,骨太の方針第三弾である「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」を正式決定し,小泉首相に答申,翌27日の閣議で基本方針を決定した.そこで,7月1日,日医は記者会見を開き,基本方針に対する見解を明らかにした.

青柳副会長 3つの宣言と7つの改革 基本方針は,(一)日本経済の課題,(二)構造改革への具体的な取組,(三)十六年度経済財政運営と予算のあり方―の三部構成となっている.そして,(1)経済活性化(2)国民の「安心」の確保(3)将来世代に責任が持てる財政の確立―の「三つの宣言」を目標として掲げるとともに,それを実現するため,(1)規制改革・構造改革特区(2)資金の流れと金融・産業再生(3)税制改革(4)雇用・人間力の強化(5)社会保障制度改革(6)「国と地方」の改革(7)予算編成プロセスの改革―の七分野での具体的な構造改革が新たに明記されている(別記事参照).さらに,地方向け補助金の四兆円程度の削減や一般小売店での医薬品販売―なども盛り込まれた内容になっている.
 六月二十六日に記者会見を行った竹中平蔵経済財政政策・金融担当相は,小泉首相の主導によって基本方針が決定したこと,骨太の方針が定着してきたことに触れるとともに,経済活性化を目的とした規制改革は今後も,打ち止めるつもりはないとの姿勢を示した.

誤った認識による3つの宣言

 これらを受けて,青柳俊副会長は七月一日に記者会見を行い,「経済財政諮問会議『骨太方針』の問題点」を指摘し,日医としての立場を明確にした.以下がその概略である.
 第一弾から現在までの「骨太の方針」の流れをみると,医療分野における構造改革の目的は,いかに国の負担を圧縮して,それを家計医療費へ転嫁するかという点にある.さらに,五百三十万人の雇用を創出するという経済活性化のために,医療を資本・市場の流れにまかせることが提案されているのが,小泉改革の本質である.
 具体的には,昨年十月からの高齢者医療費の窓口負担,今年四月からのサラリーマン三割負担といった医療費自己負担増,特定療養費の拡大化等,すべて家計に負担を転嫁するという動きがあった.
 日医としては,これらに対し,絶えず「異議あり」という指摘をしていかなければならないと考えている.
 ところが,今回は,このような流れのなかに,我が田に水を引くグループ,すなわち総合規制改革会議の意見が盛り込まれてきた.
 ここで,骨太方針の三つの宣言を検証していきたい.

「骨太方針」の背景経済活性化宣言
 民間需要を創造するという考え方が,そもそも現状認識として誤っている.
 現在の経済状況は,非常に縮小された需要を,供給サイドが取り合う椅子取りゲームのようなものである.いくら供給サイドの規制緩和をしたところで,潜在的ニーズがなければ需要は生まれない.
 このようなことから考えれば,医療や教育,農業分野における無原則な規制緩和は,「需要の創造」にはつながらない.

国民の安心感確保宣言
 この宣言は,表面の聞こえのいい言葉とは裏腹に,社会保障制度が崩壊するという脅迫のもとにされている.
 一般国民は,脅迫されたことによって,ますます貯蓄に走り,消費に向かわなくなってしまう.国民の安心感確保はこうした脅迫のもとでは成り立たない.
 社会保障は,社会的な共通資本という位置付けのもとに,国家戦略として,国の責任でやっていかない限りは,需要は縮小したまま,これから何年も続いていく.安心どころか,国民の不安を惹起する宣言であるといえる.

将来世代に責任が持てる財政の確立宣言
 国家財政そのものの信認が失われた責任が不明瞭になっているので,その責任を明確化する必要がある.そのうえで,一般国民に対して情報公開をし,現在の国家財政がどういう状況になっているかを,知らせることが先決である.

三つの宣言の総括
 これら三つの宣言は,財務省による財務省のためのシナリオにすぎず,ましてや,財務官僚による責任回避としか考えられない.そのためにも,政策を財務官僚の手から国会に取り戻す必要があるといえる.

医療分野の改悪がアリの一穴に

 (一)株式会社の参入については,(1)厚生労働省による「取扱い要件」の変更は監督官庁としての基本理念の欠如にほかならない(2)株式会社には,医療法人のように,代表者,他業の禁止等の要件がなく,そのため,他業種による医療支配が起こり,患者情報の悪用の危険性がある(3)高度医療であるが故にリスクが高く,地方公共団体が許可のリスクを負わなければならない―といった問題が生じる.
 また,対象が高度先端医療から高度な医療に変わったが,医療には「連続性」があり,高度な医療といえども,その定義が難しいこと等の新たな問題が起きる可能性がある.
 (二)保険診療と保険外診療の併用の拡大(いわゆる混合診療)については,現在,中医協の議論のなかで,例外的に併用が認められている特定療養費制度の整理を行っている.
 選定療養が拡大解釈されてきているので,特に選定療養の定義を明確にしていかなければならないと考えている.特定療養費制度の拡大という名の給付縮小は認められない.
 (三)医薬品販売体制の拡充については,薬による副作用の問題が今後ますます深刻になっていく状況のなかで,コンビニエンスストアのメリットを旗印に医薬品を発売することに違和感を覚える.
 説明と同意なしに薬が売られてしまって,患者被害が拡大する可能性があることは,患者の安全という流れに逆行している.
 (四)労働者派遣の医療分野への適用拡大については,政令改正を受け止める以上は,積極的に対応をしなければならないと考えている.
 各地の医師会における既存のドクターバンクをどう発展・進化させていくかが求められているが,売り手市場による派遣事業者の圧倒的優位性の問題がある.政令を変えて済むという問題ではなく,根本的には,需要を満たす専門職を養成するという,基本的視点が厚生労働省には欠けている.
 以上のことから,(一)〜(三)については,日医としては基本的には認められず,(四)についても問題がないとはいえない面がある.今までの流れからすると,どんどんエスカレートする危険性があるので,決して楽観視はできない.アリの一穴とならないよう,最大限の注意を払わなければならない.

「骨太方針―3つの宣言」の検証

1.経済活性化宣言
 「民間の活力を阻む規制・制度や政府の関与を取り除き,民間需要を創造する」

⇒規制の緩和や撤廃が民間需要を創造するという空想.
⇒規制緩和・撤廃で創造されるのは需要ではなく供給.
⇒潜在的ニーズがなければ需要は生まれない.
⇒コンビニエンスストアで医薬品を販売しても,全体の薬の需要は増加しない.
⇒医療や教育,農業分野などでの規制緩和は,「需要の創造」という面からも無意味である.

2.国民の安心感確保宣言
 「持続可能な社会保障制度を構築し,若者が将来を展望でき,高齢者も安心できる社会をつくる」

⇒誤解を招く宣言内容.
⇒あたかも,費用を含め国の責任で社会保障の充実を図るかのごとき表現.
⇒実態は国家財政最優先主義による国民への給付引き下げ方針に過ぎない.

3.将来世代に責任が持てる財政の確立宣言
 「財政の信認を確保し,成果を重視する」

⇒信認を失った国家財政の中身とは何か.
⇒不良債権化しているものを含め,国家財政の中身をすべて情報公開することが先決.
⇒そのうえで,信認を失う財政としたものの責任を明確にすべき.
⇒失政の責任を「潜在的国民負担率」などという概念で国民に押し付けるべきでない.情報公開することが先決.

3つの宣言の総括

○財務省による財務省のためのシナリオ
○国家財政を悪化させた張本人である財務官僚の責任の回避
○イメージだけの言葉に隠された「国民」に対する不誠実さ
○誤った認識による3つの宣言に基づく「7つの改革」の欺瞞

⇒政策を官僚の手から国会に取り戻す必要性

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