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第1010号(平成2003年10月05日) |
世界医師会における外国人医師の診療に対する声明案
去る九月十日,世界医師会(WMA)ヘルシンキ総会社会医学委員会(委員長:星北斗常任理事)の議題の一つ「医師の国際雇用の倫理ガイドラインに関するWMA声明案」を巡り,熱心な討論がくり広げられた.
医師の各国間の移動および診療に関する問題は,非常にデリケートである.例えば,アメリカ合衆国とカナダの間では,医師免許が共通なため,医師は自由に移動できる.しかし,医師免許取得はカナダの方が,そのコストを含め容易であるために,カナダの医学教育機関を卒業し,合衆国に帰国するドクターの数が近年急増し,これが大きな社会問題となっている.
また,アフリカの開発途上国の間では,出口の見えない内戦や,劣悪な労働環境から逃げ出したいと考えている医師たちを,他国が(安価な雇用費で)密輸入するといった深刻な事態が起こっている.
これらさまざまな問題を内包した,この「医師の国際雇用」の問題だが,最終的には声明案の十六項の重要さを再確認する結果となった.
すなわち,「国際間の医師の移動・診療に関しては(それが一時的なものにせよ,永続的なものにせよ),国家間(政府間)で締結された規定を基準とし,それに従ってのみ行うべきである」の条項が改めて支持されたのである.
重ねて書くが,医療プロフェッションの最も権威ある国際会議であるWMAにおいて確認支持された「各国間における医師の移動と診療」に関する国際協調(ハーモナイゼーション)の主旨とは,「例え医師免許が共通である二国間の医師の移動・診療に際してすら,あくまでも『両国政府間で締結された基準を守った範囲』でのみ認めよう」とするものである.
翻って,わが国においては,医療に関する規制緩和の一環として,特区における外国人医師の自由な診療を謳う.しかも,その診療行為に対する担保は,両国政府間で締結された基準どころか,地方自治体の長がすべて責を負うという極めて安易なものである.
国際間のハーモナイゼーション(協調)から,ここまで外れている日本政府と政府内会議の現状は,よくいわれる「日本政府の国際情勢音痴」の一言で片付けてしまうのは簡単だ.しかし,世界を見渡せば,この問題はずっとシリアスであり,日本政府の認識不足ぶりは,もはや悲劇と呼ぶしかない.
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