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第1018号(平成16年2月5日) |
予防接種実施に際しての留意事項
日本小児科医会公衆衛生委員会
このたび,日本医師会,日本小児科医会など関係団体が協議連携して,3月1日から3月7日までの1週間を“子ども予防接種週間”とすることになった.
この週間は,地域住民の予防接種に対する関心を高めるための運動を展開するとともに,対象児の予防接種漏れをチェックし,入学,入園前に済ますべき予防接種を完了するよう,保護者に呼びかけを行う週間である.特に,麻疹ワクチンは,生後12カ月から15カ月までに接種を済ませるよう,先生方からの働きかけをお願いしたい.
そこで,子どもたちの定期予防接種を,日常に,行っている実地医家の先生方のために,留意すべき事項をまとめた.
定期予防接種の接種方式には,集団方式と個別方式の2種あるが,紙面の都合上,個別接種方式を取り上げた.「受付」から「接種後」までの流れに沿って留意事項を記載したので,参考にしていただきたい.
【受付】
(1)対象者の確認-年齢,生年月日,住所など.
麻疹の場合,1歳未満児は接種しない.
相互乗り入れ制度が確立していない地区では,他の市町村の住民は接種しない.
(2)直前の予防接種実施日からの間隔を確認.
不活化ワクチン接種後に,他のワクチンを接種する場合の間隔は,概ね1週間以上.生ワクチン接種後の場合は,概ね4週間以上.
(3)今までの予防接種歴を調査する.
接種漏れがあれば,指導する.
(4)検温は接種直前に行う.
37.5℃を超えている場合は,接種しない.
【問診と予診表の確認】
(1)保護者のサインは,フルネームで書かれているか.
(2)質問事項に回答漏れはないか,内容を確認.
(3)検温は,規定の記入欄に記録されているか.
【診察】
(1)視診,聴打診などにより異常所見がなければ,“接種可”とする.
(2)接種部位の確認.
多くのワクチンの接種部位は,上腕伸側と決められている.
(3)予診表の医師署名欄はフルネームで署名.
(4)診療録(カルテ)に必要事項を記載する.
【接種準備】
(1)ワクチン保管庫からワクチンを取り出し,有効期限を確認する.
麻疹ワクチンなどは,冷凍庫保存がよい.
(2)ワクチンに間違いはないか,ワクチン種類の確認.
麻疹ワクチンを接種すべきなのに,風疹ワクチンを接種してしまったというような取り違いミスのないように.兄が日本脳炎,弟がDPTの接種を同じ時に実施する場合など,間違いやすい.
(3)予診表とワクチン瓶のラベル色は,間違えないように,同じ色になっている.
黄色―DPT,若草色―DT,オレンジ色―麻疹,桃色―風疹,藤色―日本脳炎,青色―BCG,水色―インフルエンザ
(4)接種液の調整.
麻疹ワクチンの場合,溶解液を規定量吸い取り,ワクチン瓶に注入する.溶解を確かめた後,0.5mlを注射する.
【接種】
(1)接種方法(皮下,皮内,経口)に間違いはないか.
多くのワクチンは皮下接種であるが,ツベルクリン反応は皮内,ポリオは経口である.
(2)接種量に間違いはないか.
多くのワクチンの接種量は0.5mlであるが,日本脳炎とインフルエンザの場合は年齢によって接種量が異なる.小学校6年生のDT接種量は0.1mlである.
(3)接種部位(上腕伸側)の消毒,その後の乾燥を確認.
BCG接種の場合は,乾燥をよく確認してから接種する.接種部位は,左上腕伸側で,肩峰に近い部位は避けなければならない.
【接種後】
(1)予診表,および,母子健康手帳に,ワクチンロット番号,接種年月日,接種医師名を記入したか.
(2)医師のサインの再確認.
(3)接種後の注意事項を説明したか.
(4)予診表を回収したか-提出用,保護者用,医療機関控用などの選別.
【接種後の健康被害(副反応)】
予防接種後,一定期間の間に種々の身体的な反応が見られることがある.原因としては,接種液そのものによる場合と,偶発的な疾病が混入した場合とがある.後者をいわゆる“紛れ込み事故”という.
(1)不活化ワクチンによる場合
局所反応としては,接種部位の発赤,硬結,腫脹,疼痛などがある.
全身反応としては,発熱,および,発熱にともなう熱性痙攣,脳症,蕁麻疹などのアレルギー反応,アナフィラキシーショックなどがある.
不活化ワクチンによる全身反応は,接種直後から24時間以内,遅くとも,48時間以内に発生する.
(2)生ワクチンによる場合
接種後24時間以内に発熱が起きることはほとんどない.
副反応としては,弱毒したウイルスによる感染症状を呈する.例えば,麻疹ワクチン接種後の発熱とか麻疹様発疹の出現である.
【通常みられる反応に対する対策】
(1)発赤,腫脹,硬結は,3〜4日で消失するので放置してもよいが,ひどい時は局所の冷湿布を行う.
(2)発熱対策としては,アセトアミノフェンなどの解熱剤を投与するが,他の原因による発熱もあるので,鑑別を要する.
(3)発疹対策としては,弱毒麻疹ウイルスによる小丘疹は放置してもよいが,鑑別を要する場合もある.
【通常みられない反応に対する対策】
(1)DPT接種後に,上腕全体,時には,前腕にまで及ぶ発赤腫脹が見られることがあるが,冷湿布,ステロイド剤や抗ヒスタミン剤の塗布で,多くは軽快する.
(2)ポリオワクチン投与後の麻痺,BCGワクチン接種後の腋下リンパ節腫脹,などが報告されている.
【重篤な副反応】
心停止,痙攣,アナフィラキシーショックなどに遭遇した際の対応は,予防接種ガイドラインの記載によられたい.
以上は,筆者のささやかな経験を基に記述したので,記載漏れがあるかも知れない.接種に当たっては,くれぐれも慎重に対応し,接種後の副反応患者に遭遇した際も適切に対処していただきたい.
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