日医ニュース
日医ニュース目次 第1027号(平成16年6月20日)

植松会長特別講演
地域に密着した医師会活動を基本に

 植松治雄会長は,五月二十二,二十三の両日,広島市で開催された平成十六年度中国四国医師会連合総会において,特別講演を行い,当面する重要課題を中心に考えを明らかにした.要旨は次のとおり.

植松会長特別講演/地域に密着した医師会活動を基本に 現在,唯一の成長産業は医療であるといわれ,これをテコとして,経済再生と雇用促進を図ろうというのが,経済界・政府の考えである.また,小泉内閣の医療改革は,国民の健康や疾病の問題よりも経済の活性を第一に考えているといっても過言ではない.
 武見太郎元会長の時から,医師会の歴史は健保闘争の歴史であるといわれ,医師会の行動は,外から見れば医療機関の経営の安定,収入増を目的としていると受け取られている.しかし,その根底には,立派な国民医療にしていこうという理念があり,このころから,医療費削減の政策に反対してきた.
 ところが,今,アメリカあたりから,「日本の医療費を,アメリカ並に増やせ」という声が聞こえてきている.一方,わが国の政府は,これ以上医療費への支出はできないといっている.このはざまに,今抱えている大きな問題があり,混合診療の主張などは,すべて,そこから出てきている.
 医療費抑制の下,日進月歩といわれる医学・医療の進歩,加えて少子高齢化のなかで,「質の良い安全な医療」を提供せよということは,無理な話である.そう考えると,国家財政が悪くとも,「公的医療費の枠を広げろ」という声が,われわれ医療提供者側から出てしかるべきであろう.医学・医療の進歩の享受を国民皆保険制度のなかで行わないと,国民の不公平・不平等感は払拭できない.

混合診療の解禁は医療費抑制効果なし

 混合診療が解禁された場合,一時的には医療費の伸びは抑制されるかも知れないが,経済力の弱い人々から質の高い医療を求める声が必ず出てくる.将来的には,公的医療保険に取り込まざるを得なくなると考えると,混合診療は公的な医療費を抑制する効果はない.
 大学病院や大病院,また,中小病院や診療所のなかにも,混合診療を是認する声がある.しかし,日本の医療は,だれでもが安心して平等に受けられ,相互扶助の精神によって医療保険が確立していることを考えると,当面の問題だけを考えて混合診療を取り入れてはならない.もし,医師会が混合診療を是認したならば,国民サイドから,やはり医師会は,自らの収入を増やそうと考えているのだという批判が必ず出てくるはずである.
 混合診療の解禁は,国民の医療への不平等感と,負担の増大を除けば,国も経済界ももろ手を挙げて賛成する考え方であり,実現しそうな政策なので,一番気をつけなければならない.

医療費増大につながる株式会社参入

 混合診療は,株式会社の医療への参入時の経営には非常にプラスになると考えられている.この株式会社の医療への参入は特区において認められたが,その後,あまり大きな声が出ていない.なぜなら,株式会社が医療に参入すれば,株式会社の経営する病院・医療機関は当然利益を上げねばならず,いわゆる高点数,過剰診療が起こる危険性があるからである.トータルとして,医療費は増大してくる.そのためには保険料を上げるか,国庫支出分を増やすか,どちらかしかなく,保険料の半額を負担している企業の負担も増えることに,経済界は気がついたようである.
 一方では,外国からの大きな要望のなかで,株式会社の問題が出てきていると思っている.今は特区での問題であるが,全国展開を求めているのは,多くは外資系のものであり,政策が示されるときに,十分に考えていかなければならない問題であると考えている.

消費税は事業税とともに議論

 消費税について,私どもは税率を上げて医療費に回せと一言もいったことはないが,例え医療費の財源に回ったとしても,医療機関の経営がさらに悪化することになるので,今から十分に損税対策を考えておかなければならない.
 ゼロ税率が実現しそうにないときに,もし軽減税率で通るならば,具体的に,自民党の税調,さらには政府税調で取り上げてもらえるような実際的な議論もしておきたい.
 ただ,問題が一つある.それは,医療の非営利性がどう判断されるかである.消費税がかかることで,医療は非営利ではないといわれると,事業税の問題が出てくる.診療報酬に消費税がかかったときに,消費税は軽減されても事業税がかかることになれば,かえってマイナスになるので,その点をクリアしておかなければならない.将来,外形標準課税になると,これがさらに大きな問題になるので,消費税一つだけ取り上げての議論ではすまない複雑なところがある.

医療安全を確保して国民の信を得る植松会長特別講演/地域に密着した医師会活動を基本に

 現在,行われている医療改革は,医療費が抑制されないものは改革ではないといった考え方で進められているが,このようなものは到底改革には当たらない.医療改革の基本は,国民にいかにして安全で質の良い医療を平等に提供することができるかにあり,医療提供体制をどうしていくかにある.
 今,医療提供側に求められているのは,医療の安全である.医療事故が多く報じられ,国民は大きな不安を抱えている.私どもが,日本の医療制度について話をしても,国民に大きな共感を得られないのは,医療の安全に対しての国民の信頼が薄れてきているからではないか.今後の医療改革について,国民の賛同を得るのに一番大切なことは,医療の安全の問題である.これは単に個々の医療担当者のみの責任ではなく,トータルとしてのシステムにも問題があり,やはり,中心に考えなければならないのは医師の倫理とスキルの問題である.
 日医は,今後,生涯教育によって,どのように会員全体の資質を向上させ,倫理を高揚できるかを志向しながら進んでいかなければならない.それが確立すれば,今,論じられている医師免許の更新制についても,国の関与なしに,国民の理解が得られる形でクリアできるのではないかと考えている.

国民のための施策を展開していくのが医師会の役割

 「小泉改革」といわれている現在の医療改革が,国民の健康さえも聖域化しないと公言しているときに,政府がどのようなビジョンを考えながら進めていくのかを,医療をあずかる者として問わなければならない.私は,この改革のなかには国民に対する温かさがないと感じているので,その点について,率直に,小泉総理と話し合っていきたいと思っている.
 医師会が国民に認められるためには,健康な人をより健康に,あるいは疾病にならないように,広い範囲で国民に対して施策を展開していくべきではないかと考えている.
 医師会のなかで一番大切な地域医師会が地域に密着した医療を展開し,都道府県医師会がそれをサポートする.さらに,その意を受けて政策をつくり,政治的な行動もするのが日医である.このように下から積み上げていく医師会の姿が求められていると思っている.
 厳しい状況下で行動し,実効を上げていかなければならないが,今後,会員の皆様からアドバイスをいただきながら,日医として,政策をきちんとしたものに固めていきたい.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.