日医ニュース
日医ニュース目次 第1029号(平成16年7月20日)

松原謙二常任理事に聞く
これからのORCAプロジェクトと日医総研

 新執行部が発足して三カ月余.職務分担に従い,各担当役員が活発に活動している.随時,本紙において紹介していく予定であるが,今回は,医療情報と日医総研を担当している松原謙二常任理事に,これからのORCAプロジェクトと日医総研について語ってもらった.
(聞き手・田島知行常任理事)

松原常任理事(左)を取材をする田島常任理事

Q 医療分野のIT化はどうあるべきだとお考えですか?

 パソコンの高性能化と通信技術の発展によって,急速に世の中はIT化されています.確かに,医療分野においては,IT化が遅れているとの指摘があります.患者さんの安全のためにも,医療事務の効率化のためにも,IT化は必要なものと考えます.
 しかし,IT化は良質な医療を行うための手段であって,目的ではありません.世の中がIT化されているから,医療分野もIT化しなければならないとの単純な考えでは,情報通信産業の利益になるばかりです.
 あくまでも,患者さんと医療機関にとって必要なものは何かという視点がなければなりません.さらに,IT化の費用をだれが負担すべきかという議論も必要ではないかと考えます.

Q ORCAプロジェクトの日医標準レセプトソフトはどうなるのでしょうか?

 日医標準レセプトソフトは,植松会長が会長選挙でも公約いたしましたように,必ず推進していきます.二年前までのソフトは入力に手間がかかり,とても実用に耐えられるものではありませんでしたが,現在ではかなり進化して,使い勝手の良い物になってきました.
 しかし,三年経ってもいまだ七百件以下の医療機関しか完全導入に至っていないのが現状です.この原因の一つは,ネットワークの形成を急ぐあまり,エネルギーが分散されて,完全なレセコンを作れていなかったことにあります.不十分な機能のレセコンが,どんなに医療事務担当者や患者さんに迷惑をかけるのかを,もっと認識すべきです.
 問題点の改善を最重点事項として,ソフトを修正し,本年五月からは,要望事項のためのホームページ受付を開始しました.七月には,現在,レセプトを実際に作成提出されている医療機関にアンケートを実施し,具体的に困っている事項の調査を行っています.
 さらに,使用マニュアルをマニュアル作成の専門家に委託して一新し,だれが読んでも理解できるものにする予定です.地方公費についても近日中に対応いたします.
 今後も,日医総研や関連サポート事業所のマンパワーを集約強化して,使いやすいレセコンソフトを供給すべく努力いたします.

Q 日医におけるレセプトソフト作成の費用は?

 これまでに何億円もの費用がかかったことには問題があると考えます.さらに,このレセプトソフトを使用する会員には利益があるが,使用しない会員にとっては恩恵がないと いうのでは,会員の公平性においても問題ではないでしょうか.
 しかし,日医標準レセプトソフトを使用されている医療機関から,個人情報保護法に抵触しない範囲でレセプトデータをお送りいただき,さらに,医療機関が特定できないようにして日医総研で分析すれば,そのデータは現状を適切に反映し,次期あるいは遅くとも次々期の診療報酬改定において,日医会員全員に貢献することは間違いないと考えます.

Q ORCAプロジェクトの電子認証局についてはいかがですか?

 電子認証局については,前執行部が本年三月にソフトと機器で一億五千万円の五年リース契約を交わしていて,解除すれば賠償責任が生じる状態になっていました.確かに,電子認証局は,今後のネットワーク形成のためには必要なものといえますが,日医IT化宣言によって決められた方針との理由により,前年度の常任理事会に報告事項として提出されただけで,このような大きな費用の支出が行われたことは理解に苦しむことです.
 さらに,担当した会社に費用の詳細を求めたところ,「日医用に作成し直したので,このような高額な費用になった」とのことでした.しかし,契約したのは事実なので,その会社の総会で欠損金として扱われ,民事訴訟になるのもいかがなものかと考え,本年度の常任理事会で協議し,試行的に電子認証局を立ち上げていくことを決定しました.
 今後は,付随して発生する費用について,十分に検討し,試行していく予定です.この電子認証局は,各医療機関同士の連絡に役立つだけでなく,先ほどの日医総研によるレセプトデータの収集解析に役立つと思われます.

Q 懸案のTV会議についてはいかがでしょうか?

 TV会議システムについては,昨年度の都道府県医師会情報システム担当理事連絡協議会で,かなり紛糾したわけですが,三月末に各都道府県医師会に送られてきた試作テスト機が,TV電話程度の機能しか持っていなかったので,都道府県のTV会議には対応できないと判断いたしました.
 再度,本年度のIT問題検討委員会で検討し,講演・セミナーなどへの使用も考慮して,日医に必要なシステムを構築する予定です.

Q 日医総研の研究部門についてはいかがですか?

 日医総研には優秀な研究員たちがいます.しかし,日医総研として研究し,発表した内容と,執行部の考えにずれがあった場合,日医総研の意見を日医の意見と考える人々に誤解を招く可能性がありました.そのために,自由な研究に加えて,各常任理事の担当業務に合致した研究テーマには担当常任理事を定めて,研究員と理事がより緊密な関係を保てるようにして,誤解の生まれないようにいたしました.
 今後は,日医のシンクタンクとして,さらなる活躍が期待されています.医師の考え方だけでなく,広く各分野の研究者の意見を日医が吸収していくことも可能と考えます.

Q 最後に,日医総研の事業部門についてはいかがですか?

 もともと事業部門は,日医総研の庶務を扱う事務組織だったのですが,さまざまな業務を担当するようになっています.しかし,問題は,収益を目的として,次々と事業を自ら作り出していった点にあります.社団法人日本医師会としてふさわしい業務は何かと考えた場合,利益の追求ではなく,あくまで会員の先生方に必要なことを行っていくのが筋と考えます.
 会員の先生方から参加費を求めるのではなく,会費を納めていただいている以上,必要な事業は日医本体の業務とすべきです.日医総研は事業で利益を求めるのではなく,研究,企画,立案,試行を担当し,日医のシンクタンクとして,さらなる発展をすべきであると考えます.

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