日医ニュース
日医ニュース目次 第1055号(平成17年8月20日)

日本医師会「医療事故防止研修会」
医療事故対策へ,具体的に取り組む

 日本医師会「医療事故防止研修会」が,8月6,7の両日,日医会館大講堂で開催された.
 植松治雄会長は,就任以来,「医療の安全を守ること.そして,それを行動で示すこと」を表明.この社会に対する日医の責務を,研修会の開催という,国民の目に見える形で実現させた.

日本医師会「医療事故防止研修会」/医療事故対策へ,具体的に取り組む(写真) 最初に,寺岡暉副会長が,「安全で質の高い医療を提供すると同時に,繰り返しての医療事故が発生しないよう,医師に対する教育を行うことが日医としての社会的責務と考え,今回の研修会を開催する運びとなった」と,本研修会の開催趣旨を説明した.
 つづいて行われた会長講話において,植松会長は,「現在,医療事故が続発しているが,その多くが,患者の取り違えなど,医師としての基礎的な部分がおろそかになっている場合が多い」と指摘.国民の医療に対する強い不信感を払拭するためにも,今回の研修会で,事故が起きる原因を自ら考え,安全な医療を提供できるようにしてほしいと述べた.また,「医療は最終的には人とのかかわりが重要になってくる」とし,現在,会内で,日医の生涯教育カリキュラムの基本的医療課題の履修を専門医の更新時に,更新条件の一つにすることはできないか検討を行っていると説明した.
 特別講演(一)「なんで俺だけが…」(行天良雄氏・医事評論家)では,(1)国家資格としての医師免許の重さを自覚してほしい(2)専門家としてきちんとした組織体を作ってほしい,そして,きちんとした医師には日医がお墨付きを与えるようなシステムを作っていくべきだとする二点を中心に講演を行った.
 報告「わが国における医療事故の現状と分析」(藤村伸常任理事)では,最高裁判所の統計などから,医事紛争が増えていることを説明したあと,医事紛争発生要因などの分析を行った.また,医事紛争を防ぐために,ピアレビュー(同僚審査)が有効であるとされており,そのシステムを作る必要があると考えていると述べた.
 つづいて,第一部「医師の職業倫理」として,(一)医師の責務(坂上正道北里大学名誉教授),(二)医療における責務(高久史麿日本医学会長),(三)社会に対する責務(五阿弥宏安読売新聞社会部長),第二部「患者医師関係」として,(一)インフォームド・コンセント(森岡恭彦日医参与),(二)医療における善管注意義務(河上正二東北大学法学研究科教授),(三)医療に対する患者・国民の願い(出河雅彦朝日新聞編集委員)の講演が行われた.

「被害者家族の願い」に深い感銘

 第二日目は,はじめに,橋本信也常任理事が,「振り返り」と題し,前日実施したプレアンケートのうち,評定尺度の設問の集計結果を示した.さらに,ヒポクラテスの時代からいわれる“医師と患者”のコミュニケーションが重要で,フーヘランドの『医戒』を改めて学ぶべきであると述べた.
 特別講演(二)「医療の安全を願って─医療事故被害者家族の願い─」(稲垣克巳氏・学識者)では,術後管理が不十分で意識不明となり,二十二年経った現在も自宅療養中の長男の事故の経緯を語り,具体的な提言と,情報をまとめる第三者機関の設立など,医療事故再発防止を訴えた.
 次に,第三部「患者安全」として,(一)医療事故・医療過誤(宮田親平氏・科学ジャーナリスト)では,『人は誰でも間違える(TO ERR IS HUMAN)』(医学ジャーナリスト協会翻訳出版)が紹介され,重要なのは,個人攻撃ではなく,安全確保システムの構築であるとされた.
 (二)医事紛争・賠償(山口光哉日医医賠責調査委員会委員長)では,日医の医賠責保険制度の歴史・仕組みと,診療科別紛争事例などを解説.
 (三)医療訴訟(畔柳達雄日医参与)では,医療事故における,(1)民事責任(2)刑事責任(3)行政処分の三つの法律問題のうち,最近増加傾向の(3)について,主に解説された.
 (四)リスクマネジメント(浜島信之名古屋大学医学部予防医学教授)では,その歴史的背景と概要を説明.
 (五)現場の取り組み(橋本廸生横浜市立大学医学部医療安全管理学教授)として,安全文化の形成と実践,認識と行動の確立について詳しく解説された.
 また,どの講義にも,時間が足りないほど熱心な質疑応答が行われた.
 最後に,櫻井秀也副会長が,「本研修会を現状の改善への第一歩と位置づけ,日医としても実効ある医療安全対策を立案・提示していきたい」と総括し,会は終了した.

寺岡副会長「医師会の一体的取り組みの第一歩」

日本医師会「医療事故防止研修会」/医療事故対策へ,具体的に取り組む(写真) 寺岡暉副会長は,日本医師会「医療事故防止研修会」を終えた八月九日,日医会館で記者会見を行い,研修会修了後の感想を次のように述べた.(写真
 「現在の執行部は,医療安全対策に真剣に取り組み,社会の要請に応えるべく努力している.日医が,医師以外の有識者ばかりでなく,医療事故に遭われた方のご家族の話を直接聞く機会をもったのは初めてのことであり,参加者の胸に深く刻まれたのではないかと思っている」
 また,参加者に対して行った意識調査結果に触れ,研修会開始前のプレアンケートでは,「この研修会に期待している」が「三・九」(五段階評価の平均,以下同),「この研修会で得た知識を今後生かすつもり」は「四・三」など良好な数値が得られたと説明.
 研修会終了後のアンケートによる総合評価でも,「この研修会はためになった」が「四・二」,「この研修会で得た知識を今後生かすつもり」は「四・三」と,いずれも高い評価を得ており,参加者からは継続的な研修会開催の要望があったことを明らかにした.
 これを受けて,寺岡副会長は,形式については検討課題として,今後も最低年一回程度の研修会の開催など,医療事故防止対策を充実させていきたいとした.
 なお,参加人数は,八月六日は三百十六名,七日は三百二十七名,両日とも参加は三百名であった.

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