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第1055号(平成17年8月20日) |
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胎児治療の現状
〈日本産科婦人科学会〉
近年,超音波断層法等の画像診断の進歩に伴い,出生前より胎児の病的状態を詳細に把握できるようになった結果,出生後の新生児の内科的・外科的治療が進歩,多くの先天性疾患の児らの救命が可能になりつつある.しかし,これら胎児診断や新生児治療によっても救命できない重症の病的状態にある胎児,とりわけ未熟性の故に胎外生活への適応が困難とされる胎児に対して,子宮内で治療を行うことにより,病状の改善を図り,新生児治療を開始できるようにすることが胎児治療の目的である.
胎児治療として一九七〇年代から種々の治療が試みられているが,日本産科婦人科学会周産期委員会では,全国規模での胎児治療調査,登録を実施した結果,現在試みられている胎児治療のなかで十分効果が認められ,一般医療として受け入れ可能な治療法を示している(表).
胎児輸血は早くから実施され,世界的にも認知された治療法であり,Rh不適合妊娠やパルボウイルスB19感染による重症の胎児貧血に対して,超音波ガイド下に臍帯血管や胎児腹腔内に輸血を行うものである.上室性頻拍などの胎児頻脈に対して実施されたジギタリスやフレカイニド等の経胎盤的薬物治療の奏功例も胎児輸血と同様,数多く認められている.
加えて,外科的な治療として,超音波ガイド下での胎児胸水症や胎児下部尿路閉鎖の症例に対するシャント術の有効性についても評価されつつある.最近,これらの二つのシャント術による治療法が高度先進医療に認定されたが,胎児が初めて保険医療の対象として認定された画期的なケースであろう.
注目されているのが胎児鏡(子宮内内視鏡)下のレーザー治療であり,特に双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー治療については,数十例の有効症例が国内で報告されている.重症の双胎間輸血症候群とは,双胎胎児の共有胎盤内での複数の血管の吻合による血流の偏移がその病因であり(一側の児には大量の血液の流入による浮腫,心不全,羊水過多,胸腹水の貯留が発症,他方の児には少量の血液しか流れないことによる発育遅延が発症する),無治療の場合には児の救命率は極めて低い.この症例に対して胎児鏡を用いて胎盤を直接観察,医用レーザーにて吻合血管を凝固,固定し血流を遮断する,その結果,胎児間の血流のアンバランスを是正,胎児の病態の改善を期待するものである.
胎児治療の認知とともに,この分野のますますの発展が期待されよう.
【参考文献】
一,中野仁雄:周産期委員会報告(平成12年度周産期登録システムのあり方検討小委員会).日本産科婦人科学会誌 53:941-947,2001.
表 日本で「有効である」と認められた胎児治療
(1998年日産婦周産期委員会 胎児治療登録) |
1)胎児貧血・胎児水腫に対する胎児輸血
2)胎児頻脈に対する薬物療法
3)尿路閉塞性疾患に対する尿路羊水腔シャント
4)胸水症,CCAM※に対する胸腔羊水腔シャント |
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※CCAM:先天性嚢胞性腺腫様奇形 |
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