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第1059号(平成17年10月20日) |
第113回日本医師会臨時代議員会
植松会長あいさつ(要旨)
昨年は,中越地震や台風など天災による被害が各地で発生しました.本年は平穏無事な年でありたいと祈念しておりましたが,台風十四号による被害が九州地方にもたらされてしまいました.この席を借りて,被害を受けられた皆さまに対してお見舞いを申し上げます.
本日は,私見を交えながら,医療を巡る状況に関する日医の今後の方針等についてお話しさせていただきます.
医療費抑制論を斬る
本年八月に衆議院が解散され,選挙が行われましたが,その結果は,自由民主党の大勝に終わりました.郵政民営化の是非が正面のテーマであり,医療改革の問題が争点にならなかったことは残念でした.この結果を受けて,医療改革の流れが加速することは明らかであり,現に経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議の民間議員諸氏の発言が厳しさを増してきています.
一方,財務省は,医療費抑制のために診療報酬の二〜五%の切り下げを公言し,保険医療の給付範囲の見直し,ホテルコストの利用者負担,高齢者の負担増,入院期間の短縮なども挙げています.
その論拠となっているのが厚生労働省による推計であり,「平成三十七年には医療費が六十九兆円に達する」と大騒ぎしています.しかし,過去の厚労省の発表を見てみると,平成七年の推計では,平成十六年の医療費は五十兆円としていましたが,実際には三十二兆円でした.また,このとき,平成三十七年の医療費を百四十一兆円と予測していましたが,前述のとおり,本年の推計では六十九兆円と発表しており,わずか十年の間に,予測値は半分以下に激減しているのです.
さらに,厚労省は本年度の医療費推計に当たって,一人当たり医療費の伸びを七十五歳未満二・一%,七十五歳以上三・二%で計算していますが,平成十年から現在までのデータを基に日医総研が分析したところによれば,一人当たり医療費の伸びは年平均七十五歳未満で一・一%,七十五歳以上で〇・六%と,低いレベルに収まっています.
これらのことからも分かるとおり,医療費抑制政策を推進する基となっている資料がいかに曖昧であるかが,理解していただけると思います.このような,不確実な論拠を礎にした医療費抑制の主張に対しては,今後も数々のデータを基に反論していきます.
医師不足と勤務医の問題
医療の現場では,医師不足・偏在という形で医療提供の困難さが表出しており,勤務医の先生方からは過重労働を訴える声が聞こえてきます.
医師不足・偏在の問題に関して,小児科・産科医療の今おかれている危機的状況への対応も非常に重要です.本日は,これに関する質問が出ておりますので,返答をお聞きのうえ,私どもの考えを理解していただければ幸いです.しかし,これは日医執行部の考えだけで解決する問題ではありません.会員の皆さまをはじめ,医学生など諸般にわたる意識改革が必要となりますので,何とぞご協力をお願いいたします.
勤務医の過重労働の問題を突き詰めると,医療提供体制はいかにあるべきかという根本に立ち返ります.病院は入院医療を中心に行うべきですが,現状では,外来に力を注ぎ過ぎている面もあると思いますので,基本に戻った議論を期待しています.そこで生まれた案をどう実現に結びつけるか,という姿勢で,診療報酬改定にも臨みたいと考えております.
また,医療改革のなかでは医療計画の見直しも予定されていますが,これも会員の皆さまの意見を反映できるようにしたいと考えています.
国民と共に医療の質を守る
先日のマスコミ報道によると,与党の政策を担当する幹部の先生から,「医師数の過多が医療費増加に影響している」との発言があったようです.今後,このような誤った認識の下で,医療費の削減策が推進されてよいのでしょうか.国民の負担増が起こり,国民皆保険制度が危うくなるようであれば,昨年の混合診療の導入を阻止した時と同様に,国民と共に国民皆保険制度と医療の質を守る運動を展開したいので,その際には,各地において同一の行動をお願いする予定です.
診療報酬については,財務省その他が主張しているマイナス二〜五%の改定では,医療の質は到底保つことはできませんので,プラス改定にもっていけるよう努力してまいります.現在,基礎的なデータを日医総研ともども検討しているところであり,近々のうちに改定についての日医の考え・要望を,中医協はじめ政府・与党に提出する予定となっております.
連日報道されているように,アスベストによる健康被害も重大な問題ですが,現在の状況への対処だけではなく,より広く各種の状況を見ながら,産業保健・環境保健の立場から今後の方針を検討していかなければなりません.種々の具体的な問題を抱えてはおりますが,会員諸氏には十分に理解していただき,ご指導・ご支援をお願いします.
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