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第1068号(平成18年3月5日) |
拙速すぎた管理者要件の見直し
へき地や特定の診療科での医師不足を解消するために,へき地医療や小児医療,救急医療などに一定期間従事することを,病院・診療所の管理者の資格要件に付け加えるとの方針が,突然,厚生労働省より提案された.しかも,厚労省からは次期の医療法改正に合わせて行いたいとの意向も示された.
この方針は,昨年の全国知事会や全国衛生部長会からの要望を受けて厚労省が示したものと思われるが,日医としては,「十分な議論もなされていないなかで,次期医療法改正に盛り込むなど時期尚早である」と強く主張し,今回の提案は見送られることが決定した.
医師が自らの使命感で,積極的に,医師偏在の地域・診療科・分野に従事することは大いに奨励されるべきである.しかし,それを管理者要件とするのは,個々の医師の職業選択の自由や居住の自由を奪うことになり,認めることはできない.
さらに,その要件を,現在医療機関に勤務している医師にまで適用するということになれば,将来開業を考えている医師は,要件を満たすために今の勤務先を辞めざるを得なくなる.また,特定の医療機関に医師が集中することで,最悪の場合,病院,診療所そのものを閉鎖しなければならないところも出かねない.そうなれば,患者さんは,かかりつけ医を失うことになり,医師偏在の解消どころか,むしろ患者さんが不利益を被ることになる.
日医は以前から,新医師臨床研修制度のなかで,地域医療を学ぶべきであると主張しているが,今回の件も,すでに管理者要件とされている臨床研修のなかで,へき地や救急などの経験を高く評価し,それをもって病院や診療所の管理者要件とすれば十分対応が可能と考える.
医師不足・偏在の問題は深刻であり,早急な対策が求められている.しかし,今回のように,国や都道府県知事に医師の就職・配置転換等に関する強大な権限を与えてしまえば,医療費の抑制・削減を目的とした地域医療の再編・集約化が行われかねない.
日医としては,現在,(1)ドクターバンクの全国ネットワーク化(2)「女性医師バンク(仮称)」の運営受託(3)新医師臨床研修制度のプログラム改善の提言(4)医療法上の人員配置標準の撤廃要求など,短期・長期両面からの方策を検討している.今後は,これらの方策をいかに着実に実行に移していけるかが課題になると考えている.
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