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第1068号(平成18年3月5日) |
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麻酔管理方法が患者の長期予後に影響を及ぼす可能性がある
〈日本麻酔科学会〉
周術期の麻酔管理,薬剤投与などが術中,術後の患者の状態に影響することは広く知られている.しかし,最近,麻酔管理方法が術後一〜二年も後まで患者の予後に影響を及ぼす可能性があるとの報告がなされた.今後,非常に重要な分野となると考えられるので,ここに紹介する.
(一)麻酔深度が長期予後に及ぼす効果
手術中の麻酔深度をモニターする脳波解析装置BIS®を使い全身麻酔管理下非心臓大手術を行い,BIS 45未満の深麻酔総時間を計測し検討したところ,術前合併症の多さ,術中血圧低下時間などとともに深麻酔時間が長くなるほど,一年後の死亡率が高くなることが示された.
これを肯定する追試報告も,他グループからなされ,非心臓手術患者五千五十七名での研究では,深麻酔時間が長いほど一年後の死亡率は高く,これは術後二年までの死亡率を予想する有意の危険因子であった.
しかし,まだエビデンスとして認知されておらず,異論もあるが,麻酔管理方法の巧拙が,患者の長期予後まで影響を及ぼす可能性が示された.
(二)非心臓手術における薬剤投与の長期予後への効果
周術期β遮断薬投与の術後冠疾患による死亡率,心筋梗塞発症率への効果は,術前の心筋虚血の程度が軽い患者では,その効果が明確には認められず,ハイリスク患者では有効性が見られる.
非心臓手術を受ける冠動脈疾患を持つか,その危険性の高い患者に周術期β遮断薬を投与したところ,二年後の全死亡率は約五〇%低下,心臓死は六五%低下し,心臓合併症発症率も低下していた.別の報告でも十一〜三十カ月経過を調査し,死亡あるいは非致死的心筋梗塞率の有意の低下が見られた.
また,α2アゴニストであるクロニジンを周術期四日間投与したところ,術後二年までの死亡率が約五〇%減少した.高コレステロール血症治療薬スタチンを術前から投与されていた腹部大動脈瘤手術患者では,術後二・七〜七・三年に及ぶ死亡率の低下が報告された.
(三)血糖値および体温管理の重要性
集中治療室でインスリンを用い血糖値を厳重に管理すると,短期・長期予後が大きく改善することが分かってきた.冠動脈バイパス術でも,周術期血糖値百二十五〜二百mg/dlを目標とした厳しい血糖値管理を行ったところ,二年後の死亡率が八七%も低下し,この効果は五年後まで続いた.術中,術後のより厳重な血糖値管理は必須となってきている.
また,術中に体温低下を放置すると,創傷感染など短期の合併症が有意に増加することが分かっており,現在,長期予後への影響が検討されている.
麻酔管理が長期予後に影響する機序は不明であるが,周術期に炎症反応を抑制することが長期予後改善効果をもたらすとの仮説がある.
質の高い麻酔管理の重要性が,ますます認識される必要があろう.
【参考文献】
一,工藤一大,大村昭人:周術期管理と長期予後―麻酔科医は長期予後を変えられるか―,麻酔 54;1392-1398,2005.
(帝京大学医学部附属溝口病院麻酔科教授 工藤一大)
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