日医ニュース
日医ニュース目次 第1071号(平成18年4月20日)

平成18年度
日本医師会事業計画

 現在,わが国の医療制度について,一方では一部経済界による医療の市場化が画策され,他方では財務省を中心とした医療費抑制政策が進められている.世界に冠たる国民皆保険制度はまさに崩壊の危機に直面している.
 このような未曾有の困難な状況の中で,日本医師会会員をはじめとしてわが国の医療関係者は,全国民に必要な医療を平等に提供できる体制を守り,国民皆保険制度を堅持するために,国民とともに,一丸となって努力してきたところである.特に,第三回国民医療推進協議会総会の議決・承認を経て実施した「国民皆保険制度を守る国民運動」における署名活動では,患者負担増等の健康保険制度改悪の政策に反対する国民の意思を反映して,千七百万人を超える署名が集められた.今後は,この国民の意思を国政の場に生かすことができるよう努めるとともに,引き続き国民のために安全で質の高い医療が提供できるよう努めていくことが必要である.
 以上の基本的な対応のもとに,平成十八年度日本医師会事業計画においては,各種会内委員会の充実,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の再生と積極的活用及び日本医師会治験促進センター運営のさらなる充実・活用を図りながら,「医の倫理の高揚と医療安全対策の推進」「生涯教育の推進」「医療施設のIT化推進」「地域医療提供体制の充実」「広報活動の強化」などの重点課題について,積極的に取り組んでいく所存である.
 全会員の強い団結のもと,日本医師会の掲げる「生涯を通じた医療と保健と福祉」の実現に向けて,地域に密着した医師会活動を基本として,以下に述べる「当面する重要課題」について,諸施策を推進していく所存である.

当面する重要課題

一,医の倫理の高揚と医療安全対策の推進
 医界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,医の倫理の向上を図る.特に,わが国独自の「医師の職業倫理指針」,医師の自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供は,これを医師の責務として一層の普及,定着を促進する.さらに,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理および資質の向上を推進する.

二,医療政策の確立
 一連の構造改革が進行する中にあって,国民皆保険制度を堅持し,すべての国民が医療を必要とする時に適切に医療を提供する「国民のための社会保障」の実現に向けて全力を傾注する.特に少子高齢化の著しいわが国の現状をとらえ小児から高齢者への生涯を通じた医療と保健と福祉の改革を推進する.

三,生涯教育の推進
 生涯教育の推進は,医療の質の向上,医療事故の防止を図るためにも重要な課題である.インターネットを用いた教育講座,指導医のための教育ワークショップ,医師国試問題作成,実技を含めた研修など,生涯教育の方略の開発と普及をさらに推進する.申告率は七割を超えたが,生涯教育の義務化についても議論すべき時期に来ている.生涯教育の評価基準の確立は喫緊の課題である.さらに,日本医師会生涯教育カリキュラムの改定を行わなければならない.

四,医療施設のIT化推進
 「医師会総合情報ネットワーク」については,これまでネットワーク構築のためのインフラであるハード面の整備を図ってきた結果,都道府県医師会,郡市区医師会,さらには会員へ確実に定着した.次の段階は,構築されたネットワークを有効に使い,会員・地域医療に貢献していくことを念頭に置き,医療施設のIT化に不可欠なものを見極めてコンテンツとして提供する.日本医師会標準レセプトソフトについては,今後もユーザーである会員の意見を十分取り入れて,その完成度と普及率を高める.

五,地域医療提供体制の充実
 地域医師会との緊密な連携のもと,地域における保健・医療・福祉を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた地域医療のさらなる充実を目指す.特に,小児救急医療等の救急医療体制の確立,新型・再興感染症等の動向に十分留意するほか,少子化対策,乳幼児保健対策,学校保健対策,産業保健活動,糖尿病等の生活習慣病予防対策,禁煙推進活動,食品安全に関する早期警戒システムの構築等についても,関係機関との連携のもとに積極的に取り組む.医療提供体制の改革を進め,一層の充実を図るとともに,介護保険については,制度見直し後の検証作業を通じ,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用に十分関与できるよう対応を図る.障害者自立支援法の施行を受けて,障害者に対する医療についても積極的な対応を図る.

六,医療関係職種との連携及び資質の向上
 医師とその他医療関係職種との円滑な連携を図り,医療関係者に係る諸問題の改善に努力する.特に看護職にあっては,社会の高齢化の進展に伴い,医療福祉分野における需要が増加している状況を重く受け止め,准看護師養成制度を堅持しつつ,新卒者の増員を図るなど看護職全体の需給バランスの確保並びに資質の向上に努める.また,介護支援専門員を中心に多職種協働を推進し,ケアマネジメントの徹底化を図る.

七,医業経営基盤の確立
 国民の健康で文化的な生活を維持するために,医療や介護を担う病院・診療所等の医業経営の安定を図り,業務や設備施設の一層の合理化,近代化を進め,確固とした基盤を整えるための医業税制の改善および適正な診療報酬・介護報酬体系の確立に努める.

八,広報活動の強化
 国民の保健・医療・福祉に係る日本医師会の施策が,会員のみならずマスコミ関係者および国民から正しく理解されることが極めて重要であることから,日本医師会―都道府県医師会―郡市区医師会それぞれの広報活動の有機的連携に努める.同時に,マスコミ等へのメール配信機能の強化,新しい時代に適応したマスメディア活動の戦略的展開を検討するなど,対外広報活動のさらなる強化を図る.

九,医師会組織の強化と会員福祉施策の充実
 勤務医の医師会加入を促進して,医師会組織の強化を図るとともに,過重労働問題等にも積極的に対応する.女性医師の医師会活動への参加など女性医師に関わる諸問題については,さらに積極的に取り組む.
 医師年金については,年金資産の堅実かつ効率的な運用を図るとともに,加入促進については従来に増して都道府県医師会の協力を得て強力に推進する.また,医師・従業員国民年金基金との連絡協調体制の強化を図る.

十,日本医師会医賠責保険事業の運営
 医療事故紛争の適正な処理を通して,医師と患者の信頼関係の維持に努めるとともに,会員相互の連帯感を強化し,都道府県医師会との緊密な連携の下に医療提供基盤の安定化に資する.また,「日医医賠責特約保険」の加入者の増加に努めるほか,新医師臨床研修制度に対応した円滑な事業運営に努める.

十一,日医総研の運営と強化
 日医総研は日本医師会が行う「国民のための医療政策」の基礎資料となるレポート,資料,データ等を作成するという本来の役割に沿った運営を行っている.平成十八年度においては前年度に作成した「生涯を通じた医療と保健と福祉―改革と推進ヴィジョン(二〇〇五〜二〇〇九)―」について,さらに研究を深め,内容の充実を図るとともに,今後も日本医師会独自のシンクタンクとして,研究体制の一層の充実を図る.

十二,治験促進センターの運営
 日本医師会治験促進センターは,いわゆる医師主導治験のモデル研究を実施する.また,データマネージメント部門についても体制整備を進め,全国規模の大規模治験ネットワークの整備を行いつつ,わが国の治験実施基盤整備を図る.

十三,国際活動
 世界医師会(WMA)に対し積極的な提言を行い,理事国としての責務を果たすよう努める.アジア大洋州医師会連合(CMAAO)についても,その事務局としての役割を果たすため,各国間の情報交換を活発にして,組織の活性化を図る.また,アメリカ医師会等各国医師会との交流を通じて,医療界における共通の課題に対応していく.武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて本会が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.JMAジャーナルは,国際学術雑誌として高く評価されるよう内容のさらなる充実を目指す.

十四,日本医学会とのさらなる連携の強化
 日本医師会と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術の発展と良質で安全な医療の確保と推進を目指す.

事業の内容

一,医の倫理・国民医療
二,医学教育・生涯教育
三,社会保険・医療経済
四,地域医療・地域保健・社会福祉
五,日医雑誌
六,広報活動
七,医師会関係
・都道府県医師会との連携
・医師年金等会員福祉の充実
・勤務医の加入促進
・医師会総合情報ネットワーク構築
・関係団体との渉外活動
八,医学会関係
九,国際活動
十,医賠責保険事業
十一,日医総研
十二,治験促進センター

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