日医ニュース
日医ニュース目次 第1076号(平成18年7月5日)

唐澤会長 第1回都道府県医師会長協議会
関連法案の影響に配慮を強調

 唐澤執行部の発足以来,初の都道府県医師会長協議会が,六月二十日,日医会館小講堂で開催された.「医師確保対策」「日医総研の活性化」「医療制度改革関連法案への日医執行部の対応」など,多岐にわたる質問が出され,それぞれ担当の役員から回答を行った.

あいさつする唐澤会長
 羽生田俊常任理事の司会で開会,冒頭のあいさつのなかで唐澤人会長は,先ごろ参議院で可決・成立した医療制度改革関連法案について触れ,「法案には療養病床に関する問題,高齢者医療制度に関する問題など,さまざまな問題が含まれており,地域医療に大きな影響が出るのではないかと懸念している.政省令が決まるまでは,この法案の本当の影響は分からないが,医療の現場への負担をできるだけ少なくするために,引き続き努力していく」と述べた.

協議

 (一)世界保健機関(WHO)次期事務局長立候補支援について,唐澤会長が,「WHOのリー・ジョン・ウォック事務局長が急逝され,次期WHO事務局長に尾身茂氏が立候補している.尾身氏は,WHO西太平洋地域事務局長として,SARS問題などを迅速に処理した実績がある.政府も支援しているが,日医もできる限り支援したいと考えている」と説明.出席者からは大きな拍手があり,賛同を得た.
 当日は,尾身氏本人も来館し,立候補に至った経緯を報告.当選の暁には地域医療を充実させていきたいと意気込みを語った.
 (二)佐賀県医師会からは,DPCを,急性期の一般病床にまで拡大し医療費を抑制しようとする厚生労働省の動向に対する日医の見解を問う質問が出された.
 これに対して,鈴木満常任理事は,「日医としては,特定機能病院を除く医療機関でのDPCの導入に一貫して反対している.そもそもDPCは,特定機能病院が保険診療を使って,一定額の範囲のなかで医学教育も行う矛盾の解決策のために導入されたものである.それを医療費抑制の目的で使おうとしている.DPCを導入した医療機関の調整係数廃止後の将来像は不透明であり,日医としては,DPC導入病院の拡大には今後も反対していく」と回答した.
 (三)島根県医師会は,テレビ会議システム利用時の,日本医師会認定産業医制度における産業医学研修会の承認について,日医の考えを質した.
 今村聡常任理事は,先に北海道医師会で実施した,本件に係る実践研究事業の結果を踏まえ,産業保健委員会,認定産業医制度運営委員会で検討した結果,一定の要件下における生涯研修の更新研修のみを対象として,承認することを決定したと報告.今後は,受講者に対するアンケート調査の実施とその精査を通して,対象範囲の拡大も検討していきたいと述べた.
 なお,承認要件の詳細については,後日,各都道府県医師会に通知するとした.
 (四)看護職員の確保に関する香川県医師会からの質問に対して,羽生田常任理事は,従来,五年ごとに行われている看護職員の需給見通しが,五年後に満たされたことは一度もないと説明.また,診療報酬改定の影響で,看護職員の地域偏在や医療機関間での偏在が確認されていることを指摘した.そのうえで,これらの現実を考慮・反映した,看護職員確保対策を厚労省の委員会等で求めていきたいと述べた.
 看護職員の養成に関しては,厚労省から“国の責任において行う”との回答を得ており,今後とも,その回答に見合う施策を要望していくとした.
唐澤会長 第1回都道府県医師会長協議会/関連法案の影響に配慮を強調(写真) (五),(六)山口県・沖縄県両医師会からの,医師確保対策に関する質問については,内田健夫常任理事が回答した.
 短期的な対策としては,まず,集約化の問題を挙げ,地域医師会がリーダーシップを取り,調整機能を発揮するよう要望した.また,引退後の医師の診療経験を生かすことのできるドクターバンク事業については,地域における需給把握の観点から,地域医師会が主導して取り組むのが最も適切であると説明.全国ニカ所で行われる予定の女性医師バンクモデル事業とともに,積極的に取り組んでいきたいとした.このほか,遠隔医療支援体制,現場復帰支援策など,医療環境の幅広い整備の重要性を強調した.
 長期的な取り組みとしては,地域枠・奨学金制度の拡充,医師臨床研修のマッチングの再検討等を挙げた.また,いわゆる後期研修のなかに,へき地診療を盛り込むことも考えられると指摘.今後,厚労省の検討会等で発言していきたいとした.
 最後に,今期から日医に新設される「地域医療対策委員会」で,これらの問題を早急に検討するとともに,各地域での取り組みを情報収集し,提供していきたいと述べた.
 (七)医療問題弁護団が,手術時のビデオ撮影を義務付ける趣旨の要望書を厚生労働大臣に提出し,また,各都道府県医師会にも,ビデオ撮影実施の要望があったことに対して,鳥取県医師会が,日医の見解を求めた.
 木下勝之常任理事は,個々の医療機関が独自の判断で行うことは否定しないが,法的義務付けは医療事故に対する「責任追及型」の対応を助長するおそれがあると,懸念を表明.日医として会員にビデオ撮影の励行を求める考えはないと述べ,事故の再発予防や質の担保等の対策が優先されるべきと指摘した.
 (八)愛媛県医師会からは,今回の医療法改正により実施される新しい医療計画の具体像と,その実効性がよく見えず,現場の混乱を危惧するとの質問があった.
 内田常任理事は,医療法改正の運用を誤れば,患者さんが特定の医療機関に集中するなど,かえって適切な医療機能の分化・連携を阻害する事態になりかねないと指摘した.そのうえで,今後,医療計画の作成に向け,国が基本方針を策定し,医療機関が都道府県に届け出る情報を厚生労働省令で詳細に定める予定となっている.日医は,医療法改正で医療現場に混乱を招くことがないように適切な運用を求めていくと述べた.
 (九)石川県医師会は,終末期医療に関して,日医独自のガイドラインの策定を求めた.
 羽生田常任理事は,終末期医療に関しては,日医の第 III 次ならびに第 IX 次生命倫理懇談会で議論を行い,報告書が取りまとめられていることを説明.ガイドラインの作成に関しては,法律の問題や患者さんとその家族・親戚などがかかわる複雑な問題であるとの認識を示した.今後,医の倫理と患者さんの視点等を取り入れながら,今期から始まる第 X 次生命倫理懇談会において,作成する方向で検討していきたいと述べた.
 (十)医療制度改革に対して少なからず影響のある日本経団連,経済同友会等と定期的な話し合いの場を持つべきとする埼玉県医師会の提案に対して,竹嶋康弘副会長が,「中医協等,厚労省関係の各種の審議会での議論を通じて経団連推薦の委員と意見交換はしていたが,定期的な会合の場を設けて懇談をすることは今までなかった」とこれまでの経緯を説明.今後については,「できるだけ,経済団体との話し合いの機会を設けていきたい」と述べた.
 (十一)秋田県医師会からは,地域がん診療連携拠点病院の指定基準の見直しを求める要望が出された.今村(聡)常任理事は,「地域がん診療連携拠点病院が地域にいくつ必要なのかについては,県全体および二次医療圏の状況を踏まえて,医療計画との整合を図り,都道府県からの推薦を受けて厚労省の検討会で議論し,指定することになっている.厚労省の検討会には日医の役員も出席しており,対応していきたい」と述べた.
 (十二)(1)本年四月の介護報酬改定で居宅介護支援費の単位数に逓減制が導入されたこと(2)老人保健事業における基本健康診査の際に二十五項目の基本チェックリストの記入が義務付けられたこと─の問題点を指摘する三重県医師会の質問には,天本宏常任理事が回答.
 (1)については,ケアプランを作ることができないために利用者が介護保険からの給付を受けられないなど,現場に混乱が生じていることは把握していると説明.現場の意見に即した対応ができるよう,今後も関係当局と話し合いを続けていくと述べた.(2)については,「要支援,要介護状態にならないようにすることが重要という視点で導入されたと思うが,要件を満たせば,診療報酬の診療情報提供料が算定可能」と回答した.
(補足)(12)(2)老健事業の基本健康診査の25項目チェックリストの件に対する回答部分に分かりにくい点がありました.回答の趣旨は以下のとおりですので,ご確認願います.
 基本健診に伴う市町村への情報提供については,基本健診の流れのなかで情報提供を含んで委託されているので,医科診療点数表に掲げる診療情報提供料の算定はできません.しかし,健診を受けない,または受けていない患者さんに対して,基本チェックリスト等を活用し,医療機関が特定高齢者と判断したうえで,診療情報提供書で市町村もしくは地域包括支援センターに情報提供した場合には,診療情報提供料の算定が可能と思われます.

 (十三)日医総研の活性化を求める岡山県医師会の質問には,今村定臣常任理事が,「地域医療の現場に密着したさまざまなデータを集め,それを日医総研で分析し,その結果を基に日医が医療政策を提言していくことが必要と考えている」と述べ,日医総研を今後積極的に活用していく姿勢を表明.
 また,ORCAプロジェクトについては,「医療のIT化と標準化を進めていくうえで,その役割は今後ますます重要になる」との考えを示した.
 (十四)医療制度改革関連法案への日医の対応を問う大阪府医師会の質問には竹嶋副会長が,まず,「執行部が誕生して以来,本法案への対応に専念してきた.その過程で,現在の国政の状況からみると,法案は可決・成立すると判断.少しでも医療現場に影響が出ることのないよう,附帯決議や政省令での運用面における改善を求めることとした.日医としては,決して法案にもろ手を挙げて賛成してきたわけではない」と説明.
 昨年末に国民医療推進協議会が行った,患者負担増に反対する署名活動については,「参議院の厚生労働委員会に参考人として出席した際に,資料を添えてこのことに言及し,国民の声を政治・行政の場に反映してほしいと要望してきた.その趣旨が,今回,参議院の厚生労働委員会での採決の際に付けられた附帯決議にも反映されたと考えている」と述べた.
 また,大阪府および京都府医師会から質問のあった国民医療推進協議会の今後の運営方針については,「協議会を解散するつもりはまったくない.今後も機会あるごとに協議会を開催し,諸団体とともに活動していきたい」と述べた.
 (十五)日医がジェネリック医薬品の問題点を,適切なデータのもとに公表して欲しいとの京都府医師会の要望に対しては,飯沼雅朗常任理事が答弁.テレビ等でジェネリック医薬品の使用を促すCMが流されていることで,医療現場に混乱が生じ,日医としても何らかの方策を検討する必要があると考え,日医のホームページ上で「ジェネリック医薬品に関わる緊急調査」を開始したことを報告.「今後も調査を続け,一定数の意見が集められた段階でこれを分析し,厚労省に申し入れを行いたい」との考えを示した.
 (十六)岐阜県医師会からの,開業医が目指すべき「かかりつけ医」像を示して欲しいとの要望には,内田常任理事が「『かかりつけ医』という呼称は行政や医師会から押し付けるべきものではないが,地域医療を担う医師が国民から親しみと信頼を込めて『かかりつけ医』と呼んでもらえるように,今後も啓発活動を続けていく」と回答し,当日の協議は終了した.

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