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第1076号(平成18年7月5日) |
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関節リウマチにおける抗サイトカイン療法
〈日本リウマチ学会〉
関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)は,関節を首座とする炎症性自己免疫疾患である.従来は発症後徐々に関節変形が進行する慢性疾患ととらえられていたが,発病早期に急激に骨破壊が進行すること,患者の平均寿命が十年程度短いこと,RAに罹患することによる社会的経済的損失などが注目されるようになり,早期診断,早期治療によって病勢をコントロールすることの重要性がこれまでになく強調されてきている.
RAの病態形成において,さまざまな免疫担当細胞および,これらから産生されるTNF-α,IL-1β,IL-6などのサイトカインが炎症を引き起こすが,なかでもTNF-αが中心的なサイトカインと考えられる.実際に抗TNF-α療法が臨床応用されるようになって,その劇的な臨床効果からRAの病態形成における炎症性サイトカインの重要性が改めて明らかになった.
現在,本邦で使用できる抗サイトカイン治療としては,キメラ型の抗TNF-α抗体であるインフリキシマブおよび可溶性TNFレセプターに半減期を延長させるためにIgGのFc部分を融合させたエタネルセプトが挙げられ,これまでに約一万例を超えるRA患者に投与されている.これらの薬剤は,即効性の関節痛・関節腫脹を改善させるとともに強力な関節破壊抑制効果を示し,条件によっては骨びらんの修復も期待できる.
現時点では,これらの薬剤はMTXなどの抗リウマチ薬による治療に抵抗性を示す症例に限って用いることができる.しかし,海外の大規模臨床研究において,発症早期にインフリキシマブを含めた強力な治療を行うことで,同剤の中止後も寛解を維持できたとの報告もあり,今後は早期リウマチの段階で抗サイトカイン療法を導入し,寛解を目指すという治療戦略が,より一般的になってくる可能性が高いと思われる.
ただし,これらの薬剤には,ニューモシスチス肺炎,結核を始めとした感染症の問題,結論は出ていないが腫瘍免疫をも抑制してしまう可能性,インフリキシマブにおける抗キメラ抗体の産生,また高額な薬価など,解決しなければならない点も多く,特に感染症対策には綿密な投与前評価や場合によっては予防薬の投与を要する.
現在治験中の生物学的製剤として,トシリズマブ(抗IL-6レセプター抗体),アダリムマブ(完全ヒト型抗TNF-α抗体),アバタセプト(CTLA-4Ig)があり,また抗CD20抗体であるリツキシマブのRAに対する有効性も報告されている.これらの新しい製剤により,関節リウマチの治療における選択肢が広がり,合併症があっても,これらを使い分けることによって大部分の早期RA患者で寛解が目指せるようになるであろうことは,患者さんはもちろんのこと医療者,社会全体にとって大きな福音となるであろう.
また,これらの抗サイトカイン療法,あるいは分子ターゲット治療は,他の自己免疫疾患にも次々と応用されつつあり,今後の展開が興味深い.
【参考文献】
一,Van der Heijde D, et al: Arthritis Rheum. 2005; 52: 49-60.
二,Goekoop-Ruiterman YP, et al: Arthritis Rheum 2005; 52: 3381-3390.
(北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座・第二内科 保田晋助・小池隆夫)
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