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第1080号(平成18年9月5日) |
『分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度』の制度化に向けて
『分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度』の基本理念は,分娩に伴い不可避的に一定割合発生する重度障害者とその家族を,速やかに,社会的に救済することにより,子を産み育てる母性に共感し,女性が妊娠と分娩を不安なく迎えるための環境を整備することにある.また,今日求められている総合的少子化対策の一つとして,無過失・無責の産科医師から分娩事故訴訟による時間的・精神的な負担を取り除き,医師と患者の信頼関係に基づく健全な周産期医療環境を確保することにも資することが期待される.
そこで,本年八月,この制度の原案を作成し,平成十九年度国家予算概算要求に対する日医の重点的要望課題として,川崎二郎厚生労働大臣へ,本制度案を提出し,制度化実現を要望したところである.
本制度の補償対象は,明らかに脳障害をもたらす先天異常,染色体異常,遺伝的疾患などを除いた,生下時体重二千二百グラム以上,または在胎週数三十四週以上で出産した児であって,脳神経学専門の小児科医から,脳性麻痺で身体障害者障害程度等級第一級または第二級と診断されたものとした.
この基金の運営は事務局,調査委員会,裁定委員会,不服審査委員会,医療事故分析安全委員会からなり,障害者に対して迅速な救済を図るとともに,分娩に関連する脳性麻痺の事故要因の分析・検討を行う.
一事例に対する給付額は,生後五年間分として,二千万円の障害補償一時金と,六年目以降は年金方式で,十七歳までは二百十九万円の介護料,十八歳以降は介護料に三百九十万円の逸失利益(男女平均賃金の八割)に対する補償が加わり,総額六百九万円の障害補償年金が支払われる.
基金総額は,対象となる脳性麻痺の発生頻度を分娩千件に対して〇・二五と推定し,わが国の年間分娩数百万件に対して,二百五十件として試算した結果,基金総額を年間六十億円として,基金を創設することにより,本制度は機能するとした.
この制度の特筆すべき点は,医師または助産師等の過失・無過失を問わず,障害者を救済するものであり,また,障害補償金を支給されても,訴訟の権利は残してあることである.
本障害補償制度の趣旨と多額の基金総額を要することを考えると,基金の財源は,国の財源から予算措置を要望したい.しかし,直接関係する医師,助産師,妊婦からも基金への応分の拠出を求めることも,検討課題となる.
本制度化が実現すれば,昭和四十七年三月,故武見太郎元会長が『医療事故の法的処理とその基礎理論』で提唱した責任賠償主義に対する医師賠償責任保険の実現に次いで,無過失障害補償制度の一端を具体化するものとなり,国民にとって,その恩恵は計り知れないだけに,会員の支援を心よりお願いしたい.
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