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第1085号(平成18年11月20日) |
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肛門管にかかる下部直腸がんに対する肛門温存術式
〈日本大腸肛門病学会〉
図 肛門管の解剖と肛門温存術式 |
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直腸がんに対する根治的標準術式は長い間,直腸切断術とされ,S状結腸人工肛門造設が不可避であった.
しかし,術式の工夫ならびに自動吻合器の導入により,一九八〇年代後半から腹膜翻転部以下の下部直腸がんに対しても,肛門温存術式が広く採用されるようになり,現在では,進行がんでその腫瘍下縁と肛門縁との距離がわずか五〜六センチのものに対しても,肛門温存術式が標準術式となっている.
解剖学的には,歯状線から肛門縁までを肛門管と称するが,外科領域では,深・浅・皮下の各外括約筋と内括約筋の四つの括約筋が存在して肛門括約機能をつかさどっている,より広い範囲を外科的肛門管と呼んでいる(図).
既述の肛門温存術式は,これらすべての括約筋を温存して,肛門管上縁付近で吻合される術式である(超低位前方切除:吻合法には器械吻合と経肛門的手縫い吻合がある).
がんの手術では根治性確保のため,腫瘍から距離的余裕をもって切除する必要がある.肛門管にかかる進行下部直腸がんでは,肛門側に距離的余裕を確保すると,括約筋を切除側に含むこととなることから,今日でも直腸切断術が採用され,人工肛門となることが多い.
しかし最近,四つの括約筋のうち内括約筋のみを切除側に含めて,根治性と肛門温存との両方を確保しようという術式が試みられている(intersphincteric resection;ISR括約筋間切除:吻合はすべて経肛門的手縫い吻合).対象は,当然のことながら,がんの深達度が外括約筋までは達していないものに限定されるが,究極の肛門温存術式として注目されている.
がんの深達度に関する術前・術中の判断を過たなければ,根治性に問題はないものと考えるが,この方法により肛門が温存されたとして,術後のQOLが人工肛門をしのぐものであるか否か,現在,その客観的検証が進められている.
【参考文献】
一,Schiessel R., et al.:Intersphincteric resection for low rectal tumors. Br. J. Suerg., 81:1376-1378, 1994.
二,白水和雄,他:肛門括約筋合併切除を伴う経腹・経肛門的直腸切除術;内肛門括約筋切除を中心に.消化器外科,27:1297-1304, 2004.
(日本大腸肛門病学会理事・防衛医科大学校病院院長・外科学講座主任教授 望月英)
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