日医ニュース
日医ニュース目次 第1087号(平成18年12月20日)

平成18年度医療政策シンポジウム
財政赤字の原因と,社会保障費とは無関係
「小さな政府」論から脱却し,格差の小さな社会実現へ

 平成十八年度医療政策シンポジウムが,「国家財政と社会保障〜国家財政を破綻させた原因はどこにあるのか〜」をテーマとして,十二月一日,日医会館大講堂に三百余名の参加者を集めて開催された.

平成18年度医療政策シンポジウム/財政赤字の原因と,社会保障費とは無関係/「小さな政府」論から脱却し,格差の小さな社会実現へ(写真) 今村定臣常任理事の司会により開会.冒頭,唐澤人会長は,六月に成立した医療制度改革関連の法律について,財政主導的な視点が目立つなどの問題点もあり,運用面で改善することを衆参両院の委員会に要望したことを報告した.
 また,唐澤会長は,四月からの診療報酬引き下げ,新たな高齢者医療制度の創設,保険者の再編統合,平成二十年度からの医療費適正化対策,医療療養病床の再編成,地域の医療連携対策の強化などの重要課題について,日医としては実態を精査した後,中医協,厚生労働省,国会議員等に要望していきたいと述べた.
 つづいて,神野直彦東京大学大学院経済学研究科教授から,「国家財政と社会保障」として基調講演があった.神野教授は,経済危機が社会危機に飛び火しており,財政赤字はこれらの危機の結果であるので,経済危機と社会危機を解消して,「安心できる経済社会」を築くことが財政の使命であると述べた.また,主要国の政府支出の内訳において日本は医療・保健など,社会保障の比率が比較的少ないことを示し,過去十年ごとのGDP平均実質成長率と租税負担率の国際比較を分かりやすく解説した.
 その後,中川俊男常任理事の司会で,(1)「米国型モデルは正しいか」(金子勝慶應義塾大学経済学部教授)(2)「社会保障財源の安定的確保と財政健全化」(土居丈朗慶應義塾大学経済学部助教授)(3)「データに基づいた医療政策」(井伊雅子一橋大学国際・公共政策大学院教授)(4)「新しい福祉ガバナンスの展望(所得保障から参加保障へ)」(宮本太郎北海道大学公共政策大学院教授)―の四題の講演が行われた.
 金子教授は,不良債権処理の失敗と財政赤字の累積について説明し,日本の格差社会の問題点を米国と比較して解説,さらに社会保障と歳出削減政策についても言及した.
 土居助教授は国家財政破綻の背景に触れたうえで,歳出削減一辺倒の財政健全化が社会保障制度の存続を脅かすとして,保険原理の強化と社会保障財源としての消費税の重要性を強調した.
 井伊教授は医療分野が第二の公共事業と批判されないためには実態把握が必須だが,OECDのHealth Dataの日本の欄に空欄が多く,国際通貨基金(IMF)の最近の政府財政の欄もすべて空欄だとし,特別会計を含めた国の収支が不明確な状態で社会保障費の歳出削減を中心に議論することに疑問を呈した.
 宮本教授は,各国が「小さな政府」や市場原理主義に見切りをつけ,政府の役割を積極的に打ち出すなかで,日本は小さな政府論に固執して立ち遅れていると強調.労働市場や地域社会において人々が自立的に活動できる条件を保障する「参加保障」型分権的福祉ガバナンスへの転換を打ち出し,医療サービスもその重要な構成部分であるとした.
 つづいて,前田由美子日本医師会総合政策研究機構主席研究員が,国家財政と社会保障についての日医総研の研究成果を紹介した.前田研究員は,社会保障は国民の生命・生計の基盤であり,国家財政は社会保障を優先して考えられるべきであるとし,国の借金に対して社会保障が第一の責を負う必要はないと強調した.さらに,国家予算の一般会計,特別会計の歳入・歳出や独立行政法人との関係などを詳細に解説,国家財政の再建が社会保障費の削減では解決できないことを説明した.
 その後,五名の講演者がパネリストとなりディスカッションが行われた.
 司会の中川常任理事は,政府の「骨太の方針二〇〇六」において,今後五年間で社会保障費を一・一兆円削減することが明記されたために医療現場では医療の質や安全性を確保できなくなってきていると指摘.超高齢社会を迎えるわが国が抱えている長期債務残高や財政赤字の原因について,各パネリストの意見を求めた.
 パネリストからは,国債,債務,金利などを交えた丁寧な説明があり,最後にフロアとの質疑応答の後,閉会した.出席者三百十一名.
〔詳細は「日医雑誌」三月号別冊(予定)を参照〕

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