日医ニュース
日医ニュース目次 第1090号(平成19年2月5日)

唐澤会長 第3回都道府県医師会長協議会
『医療のグランドデザイン』では財源論も

 第3回都道府県医師会長協議会が,1月16日,日医会館大講堂で開催された.各県医師会からは,レセプトのオンライン化や控除対象外消費税,DPCなどの問題に関する質問が出され,担当役員から日医の考えや方針について説明を行った.

唐澤会長/第3回都道府県医師会長協議会/『医療のグランドデザイン』では財源論も(写真) 唐澤祥人会長は,冒頭のあいさつのなかで,政府の医療制度改革は,医療費の過大な将来推計を基にして,財政削減の視点のみで進められていると批判.このような流れのなかでは,日医が将来の医療がどのようなものであるべきかということを,その財源論にまで踏み込んで国民に示す必要があるとして,『医療のグランドデザイン』を早期に取りまとめ,公表する考えを示した.

協 議

 (一)「地域産業保健センター事業」について,今村聡常任理事が説明を行った.昨年末に厚生労働省から,財務大臣通知の「公共調達の適正化について」によって,地域産業保健センター事業においても,公募のうえでの随意契約という形式となり,さらに公募に参加するためには資格申請を年内に行うことが必要になったとの連絡がきた.唐突なことであり,地域医師会の負担も大きいことから,厚労省に対して強く申し入れを行った結果,平成十九年度は資格申請を行わなくても公募に参加できることになったほか,手続きの簡素化など,改善が行われた.日医としては,地域の勤労者の健康を守るという重要な責務から,従来どおり本事業を郡市区医師会に継続して行って欲しいと考えており,ぜひ公募に参加して欲しい.
 (二)香川県医師会から,「診療報酬請求のオンライン化」について質問があり,鈴木満常任理事が回答した.
 レセプトを原則オンライン請求にする時期を前倒しするという情報は,経済財政諮問会議から出されたものであり,厚労省と日医は,その時期では不可能だと考えている.この件について,日医は,(1)薬効・薬理作用に基づいた医薬品投与を認めることを明確にする(2)被保険者の照会の確認(3)デジタルでの画一審査をしない(4)IT化財源確保─などを前提条件としている.
 また,厚労省は月のレセプトが百枚以下,年間千二百枚以下の医療機関は,地域医師会が代行請求することとしているが,オンライン化のコスト負担も大きく,メリットの問題もあるので,弾力的に運用すべく厚労省と話し合っている.
 (三)石川県医師会からは,医療におけるIT化の問題点について―レセプトオンライン化と特定健診データについて―という質問があった.
 鈴木常任理事は,「四月から試行的にレセプトがオンライン請求されるが,日医としては,医学的判断が遵守され,診療実日数,再診料の回数の確認などに限った部分としなければならないと考えている.レセプトデータの所有権が保険者にあっても,データが管理医療につながらないよう,民間企業の利益誘導ではなく,患者の視点,患者の満足度に足場を置いた医療独自のIT化を目指したい.そのためにぜひ,日レセ,定点調査にご協力を賜りたい」と述べた.
 さらに,内田健夫常任理事は,「特定健診の受診データは電子化が義務付けられている.健診データが保険者と国の専有となることは,管理医療につながりかねない重大な意味を持っており,日医としては危惧している.現在は,公正を期すよう第三者評価機構の必要性を主張している」と説明した.
 (四)新潟県医師会から,「ORCAのID申請登録項目」について,「ORCAの参加医療機関が,各都道府県医師会で把握しにくい」という質問があった.
 これに対しては,中川俊男常任理事が,「プライバシー保護が過剰だった面があるので,今後は『医師会に対しては開示してもよい』という項を,初期設定に入れていくつもりである.登録済みの医療機関に対しても,再確認を行いたいと考えている」と述べた.
 (五)沖縄県医師会からは,日医が提案していた「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の実現が具体化されつつあることに関連して,当該制度は,すべての医療事故に関連する被害に適応されることが望ましく,制度の対象拡大に向けて尽力して欲しいとの要望があった.
 木下勝之常任理事は,当面は,同制度を立ち上げて,機能させることから始めたいとしたうえで,財源等の面で厳しいかも知れないが,すべての医療事故に対象を広げるという視点を持って,一つひとつ対応していきたいと述べた.
 (六)福岡県医師会からは,医療政策と会員に対する広報活動などに関する質問と要望があった.
 中川常任理事は,昨年十二月の医療政策シンポジウムでは,五名のパネリスト全員が,「国の借金」と呼ばれている長期債務残高の急増と社会保障費の増加との関係を否定し,また,日本は財務当局が言うほど財政破綻状態ではないことなどが明確に示されたと説明.これらの内容を,政府与党への働き掛けや,財務当局,厚労省との議論などにも有効に活用していくとの考えを示した.
 会員に対する広報に関しては,できるだけ速やかに,日医の活動状況を伝える手段を考え,実行するとした.
 また,日本テレビ系列の「報道特捜プロジェクト」で,レセプトの審査委員会が,あたかも身内だけで行われているかのような報道があったことに対しては,近々に,局の担当者に報道内容の真意を質し,申し入れを行うと述べた(別記事参照).
 (七)日本の優れた医療を国民に伝え,守るためには,メディアを味方につけた世論の喚起が効果的であるとする岐阜県医師会の指摘に対して,中川常任理事は,指摘のとおりであるが,まずは,日医の主張が国民に正しく伝わるような基盤整備が必要であると説明.「既得権益を守る圧力団体」というネガティブイメージを払拭するためには,細く長い道程ではあるが,テレビCM等を通じて,日医が患者・国民の側に立っていることを継続して訴えていく必要があるとした.また,記者会見等を通じて,さらに各メディアとの連携を深めようと考えていると述べた.
 (八)山口県医師会は,(1)地域医療支援病院の展望と今後のあり方(2)医師会立の地域医療支援病院が,医師修学資金貸付事業等の公的制度の対象外とされていること―について,日医の見解を質した.
 鈴木常任理事は,(1)について,地域の医療機能の分化と連携に誠実に取り組む地域医療支援病院の存在意義は,今後,むしろ高まるものと考えていると説明.また,地域医療支援病院の今後の方向性等については,厚労省の「医療施設のあり方に関する検討会」などで意見を述べていきたいとした.
 (2)については,一律に排除されることは認められないとした.
 (九)埼玉県医師会が,DPCの急性期外来への導入阻止を求めたのに対して,唐澤会長が,DPCは急性期外来にはなじまず,その導入に断固反対していくと言明.
 一方,鈴木常任理事は,再入院の問題など,DPCの影の部分を指摘し,DPCの再構築を行う時期に来ているのではないかとの考えを示した.
 また,後期高齢者医療制度への包括化導入に反対するなかで,吉原忠男埼玉県医師会長が,国保中央会の「高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会」の報告書に触れ,その内容を問題視したことに対しては,竹嶋康弘副会長が回答.日医としては,その内容のすべてに賛成したわけではなく,人頭払いなどには反対していく姿勢を表明した.
 (十)医療における控除対象外消費税の解消に向けた早急な対応を求める鳥取県医師会の要望に対しては,今村(聡)常任理事が,「消費税の税率引き上げの問題については,秋ごろから議論が本格化すると言われているため,夏までが大事な時期になる」としたうえで,昨年の臨時代議員会終了後から,国会議員のほか,マスコミ関係者とも勉強会を行い,理解を求めていることを報告.また,各県医師会でも,鳥取県医師会のように県議会に働き掛けを行って欲しいと要望した.
 (十一)かかりつけ医機能を高め,病診連携を進めることで,地域医療をあるべき姿に戻すべきとの千葉県医師会の提案には,内田常任理事が,いわゆる“かかりつけ医”の役割は,地域における一次医療の充実や安全対策の向上等において,今後,極めて重要になると,千葉県医師会の提案に賛意を表明.そのうえで,「日医の学術推進会議などでも,その役割について議論を進めているが,都道府県医師会でも,かかりつけ医機能の普及啓発と地域における医療機能の効率的な分化と連携の推進に取り組んで欲しい」と述べた.
 (十二)大阪府医師会が,朝日新聞に昨年十月に掲載した学校医に関する日医の意見広告などを例に挙げて,日医の政策決定プロセスに関する質問をしたことに対しては,羽生田俊常任理事が答弁した.同常任理事は意見広告を出すに至った経緯について,今回は,いじめ,自殺といった問題が連日報道されているなかで,日医が自殺予防に取り組んでいく姿勢を早急に示す必要があると考え,会長の先決事項で掲載を決めたと説明.また,広告掲載後には,日本精神神経科診療所協会から,“こころ”の問題で積極的に協力していきたいとの申し出があったことを報告した.
 (十三)「かかりつけ医の認定」という言葉の真意を問う兵庫県医師会の質問には,唐澤会長が,「“かかりつけ医”という言葉には,個人的にも違和感があり,日医が『認定かかりつけ医制度』というものを設ける考えはない.むしろ,日医生涯教育制度のなかで,日本医学会の認定医制度を補完するような仕組みができればよいと考えている」と述べた.
 また,飯沼雅朗常任理事は,「日医による認定医というものは,医師免許の更新制導入や医療の安全が取りざたされるなかで,医師もしっかりと生涯教育を続けているのだということを国民に示す方策として検討しているものである」と説明した.

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