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第1090号(平成19年2月5日) |
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バセドウ病薬物治療のガイドライン二〇〇六
〈日本内分泌学会〉
バセドウ病は,動悸,体重減少,疲労感などの症状をきっかけに患者さんが来院されることが多く,内分泌疾患のなかでも一般診療で遭遇する頻度の高い疾患である.治療法として,薬物治療,外科治療,アイソトープ治療が存在するが,わが国においては薬物治療が選択されることが圧倒的に多い.
バセドウ病に用いる抗甲状腺薬には,チアマゾール(メルカゾール)とプロピルチオウラシル(チウラジール/プロパジール)がある.これまで,どちらを使うべきなのか,初期投与量はどれくらいが適切なのか,いつやめればよいのか等の判断は,医師個人の経験に基づいてなされることも少なくなかった.
昨年五月,日本内分泌学会の分科会である日本甲状腺学会が,『バセドウ病薬物治療のガイドライン二〇〇六』を発表したので,ここに紹介する.
ガイドラインの要旨は,以下のようにまとめることができる.
一,より早く甲状腺ホルモンを正常化できること,重篤な副作用の頻度が低いことからメルカゾールを第一選択薬とする.
二,free T4値が5ng/dl以下のような軽度甲状腺機能亢進症ではメルカゾール(五ミリグラム)三錠/日から,free T4値が7ng/dl以上のような重度の甲状腺機能亢進症ではメルカゾール六錠/日から開始し,free T4,free T3値が正常化すれば減量していく.ただし,メルカゾールの副作用の出現頻度は投与量に相関するので,最初の三カ月間は特に注意が必要である.
三,抗甲状腺薬を隔日一錠投与まで漸減した後,六カ月間以上甲状腺機能が正常に保たれていれば,抗甲状腺薬中止を検討してよい.現在は,簡便さ,有用性から抗TSH受容体抗体(TRAb,TBII)を指標としており,陰性化していれば寛解している可能性が高い.
四,妊娠初期にメルカゾールを内服した妊婦から生まれた子どもに,ごく少数ではあるが,特殊な奇形の報告がある.近い将来妊娠を計画している女性,妊娠八週までの妊婦には,チウラジール/プロパジールを選択する方が安全である.妊娠八週以降であれば,メルカゾールでもよい.授乳については,チウラジール/プロパジール(五十ミリグラム)六錠/日,メルカゾール二錠/日以下ならば安全である.
詳しくは,ガイドラインを参照されたい.バセドウ病の診断に関しても,学会ホームページ上(http://thyroid.umin.ac.jp/flame.html)に甲状腺疾患診断ガイドライン(第七次案)が公開されている.
【参考文献】
一,バセドウ病薬物治療のガイドライン二〇〇六 日本甲状腺学会編集,南光堂.
(京都大学医学部附属病院内分泌代謝科教授 中尾一和)
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