日医ニュース
日医ニュース目次 第1094号(平成19年4月5日)

平成19年度
日本医師会事業計画

 昨年は,わが国の歴史ある医療制度をめぐり,まさに未曽有の医療制度改革が展開された一年であった.
 すなわち,財政優先の視点に立った医療制度改革関連諸法が成立し,現在,その関連諸法施行へ向けての最終的・具体的な調整がなされていく重要な時期にある.
 地域医療においては,様々な場面,形で既に深刻な混乱が生じつつあり,すべての国民に対する平等かつ普遍的な医療供給システムの基本である国民皆保険制度の崩壊が懸念されている.
 わが国の国民皆保険制度は,世界に冠たる制度である一方,近年,人間の生命やその存立の根幹に関して提唱されている「人間の安全保障制度」の一つとして位置づけることができ,今後とも引き続き,堅持していかなければならない.また,今後の地域医療提供体制の「再生」へ向けては,科学的かつ正確な実態把握に基づく総合的な医療政策を提案し,地域の医師会活動とも連携しつつ,日本医師会として積極的な対応に取り組んでいかなければならない.
 そうした取り組みの前提としては,地域医療の確保・再生に関する日本医師会及び全国の医師会の今後の対応について十分に国民的理解を得ることが必要であり,併せてそうしたプロセスの中で,日本医師会への理解も獲得していかなければならない.
 以上のような基本的な認識に基づき,日本医師会は平成十九年度事業計画として,各種会内委員会の充実,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の積極的活用及び日本医師会治験促進センター運営のさらなる充実・活用はもちろんのこと,「総合的医療政策の確立」,「医の倫理の高揚」,「医療安全対策の推進」,「生涯教育の充実・推進」,「広報活動の強化・充実」,「地域医療提供体制の確立・再生」などの「当面する重点課題」について,全会員の強い結束・団結のもと,地域に密着した医師会活動を基本として,その関連諸施策の推進を図る.

重点課題一覧

1.総合的医療政策の確立
2.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進
3.生涯教育の充実・推進
4.医師会組織の継続的強化
5.会員福祉施策の充実
6.医療分野におけるIT化の総合的推進
7.広報活動の強化・充実
8.国際活動の推進
9.社会保険制度の充実に向けた取り組み
10.地域医療提供体制の確立・再生
11.医療関係職種との連携及び資質の向上
12.医業経営基盤の確立 
13.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営 
14.「産科領域における無過失補償制度」の立ち上げ
15.日本医学会とのさらなる連携の強化
16.日医総研の多角的活用
17.治験促進センターの着実な運営
18.医師再就業支援事業(女性医師バンク)の運営

当面する重点課題

1.総合的医療政策の確立
 一連の構造改革が進行する中にあって,国民皆保険制度を堅持し,すべての国民が医療を必要とする時に適切に医療を提供する「地域の状況に根ざした医療提供体制」を構築するため,全力を傾注する.それに関連して,総合的医療政策の全体像としてのグランドデザインを国民に提示する.
 また,昨年十一月二十九日に採択された国民医療推進協議会活動方針に従い,国民医療推進協議会加盟団体と協調を図るとともに,都道府県医療推進協議会の活動を支援し,国民の医療・介護・保健及び福祉の向上に向けた活動を推進する.

2.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進
 医界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,医の倫理の向上を図る.特に,わが国独自の「医師の職業倫理指針」,医師の日常的自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供は,これを医師の責務として一層の普及,定着を促進する.さらに,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理及び資質の向上を推進する.

3.生涯教育の充実・推進
 生涯教育の推進は,医療の質の向上,医療安全のためにも重要な課題である.地域医療において総合的診療を担う臨床医の質を担保し,また,かかりつけ医機能の充実のため,医療的課題も十分勘案した形で生涯教育カリキュラムを改訂し,さらに生涯教育の方略の充実,評価基準の確立を含めた日本医師会生涯教育制度の見直しを図る.
 生涯教育推進の媒体として重要な『日本医師会雑誌』は,基本的医療課題及び全科にわたる幅広い医学的課題からテーマを選んで特集を組み,毎月刊行する.さらに,生涯教育シリーズとして,時宜に適った企画内容で特別号を年間二冊発行する.
 また,生涯教育の成果を国民に分かりやすい形で示していくことが重要であり,日医生涯教育制度における新たなシステムの導入とその評価に向けて積極的に取り組む.

4.医師会組織の継続的強化
 勤務医の医師会加入を促進して,医師会組織の強化を図るとともに,過重労働問題等にも積極的に対応する.女性医師の医師会活動への参加など女性医師に関わる諸問題については,さらに積極的に取り組む.
 一方,民間の行う自発的な公益活動を活性化させることを目的に,明治三十一年の民法施行以来,約百年以上の歳月を経て行われる,この度の公益法人制度改革に対しては,平成二十年度からの制度施行に向けて,関係省庁より必要な情報を収集するとともに,医師会事業の公益性について訴えるなど,公益認定取得のための取り組みを強化する.また,全国の医師会組織が円滑に新制度に移行できるよう,情報提供や担当理事連絡協議会等の開催を通じて連携を図っていく.

5.会員福祉施策の充実
 医師福祉の充実・向上により地域医療の充実・確保が図られることから,会員の老後の生活安定及び遺族の生活安定の支えである日本医師会年金(医師年金)に対する会員のさらなる理解を深める必要がある.そのためにも,都道府県医師会との協力をより一層深めるとともに,従来にも増して普及推進を強力に進める.また,医師・従業員国民年金基金との連絡協調体制を図るほか,医師国保組合,医師協同組合,医師信用組合との情報交換並びに連絡協調体制の強化を図る.
 なお,子育て中の医師が参加しやすくするため,日本医師会が行う研修会等の開催に際しては,託児室を併設する.

6.医療分野におけるIT化の総合的推進
 「医師会総合情報ネットワーク」構想における理論構築から実践への局面において,都道府県医師会,郡市区医師会,会員との間でシステムの相互利用,情報・知識の共有を図る.
 特に,日本医師会TV会議システムは,四十七都道府県医師会との間で相互通信が可能となっている状況を踏まえ,今後は,連絡協議会等の大規模会議,各委員会等の小規模会議,講習会・シンポジウム等の講演会形式に加え,都道府県医師会が主催する会議等にも活躍の幅を広げていく.
 ORCAプロジェクトにおける日医標準レセプトソフトについては,日医総研と連携し,推進をさらに強化するとともに,データ収集を通じた医療費動向や受療動向などの解析を行うなど,医療政策提言への活用を図っていく.また,二〇一一年レセプト請求のオンライン化やEHR(Electronic Health Record)をはじめとしたIT化を医療費抑制の手段とする国の施策に対し,地域における診療支援策も視野に入れ,医療提供者の側から具体的な対応策を講じていく.

7.広報活動の強化・充実
 国民の生命と健康を守る日本医師会の主張が,いかに正当なものであれ,日本医師会が理解され認知度が高まらない限り,それを国民に浸透させることは難しい.広報戦略の基本は,第一に,日本医師会のイメージアップを図ること,第二に,日本医師会の見解を速やかに国民に伝えること,第三に,日本医師会,都道府県医師会,郡市区医師会と互いに連携して有機的な広報活動を展開すること,である.中でも平成十八年度の下半期からスタートさせたTVCMを用いたイメージアップ戦略を引き続き推進しつつ,日医企画・提供番組の拡充を図るとともに,メディアとはこれまで以上に緊密な関係を保ち,日本医師会の主張を国民に正確に伝える努力をする.
 また,ホームページを広報戦略の一環として捉え,国民向けには健康情報の提供を充実させるとともに,TVCMの視聴,定例記者会見,『日医ニュース』記事の掲載等を通じて日医の見解を分かりやすく伝え,理解を得られるよう努めていく.さらに,多くの会員と情報の共有化を図るため,各種講習会,シンポジウム等を可能な範囲で収録し,映像で配信していく.その他,医療分野における喫緊の問題を取り上げ,ホームページ上から緊急調査を実施し,政策や提言に反映させていく.

8.国際活動の推進
 世界医師会(WMA)に対し積極的な提言を行い,理事国としての責務を果たすよう努める.アジア大洋州医師会連合(CMAAO)についても,その事務局としての役割を果たすため,各国間の情報交換を活発にして,組織の活性化を図る.また,アメリカ医師会等各国医師会との交流を通じて,医療界における共通の課題に対応していく.武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて日本医師会が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.『JMAジャーナル』は,日本医師会の活動を世界に紹介する英文誌として,内容のさらなる充実を目指す.

9.社会保険制度の充実に向けた取り組み
 社会保険診療報酬検討委員会を中心に,国民に対し,安全で質の高い医療を提供するためにも,点数表の矛盾点・不合理点を含めた次回診療報酬改定に対する要望項目の取りまとめを行い,実現を図る.
 一方,平成二十年四月からの後期高齢者医療制度の創設に関連して,後期高齢者の心身の特性にふさわしい医療が提供できるよう,新たな診療報酬体系の構築を目指す.その中でも特に終末期医療については,国民的な合意を得た上で,高齢者の尊厳を守る医療が提供されるよう配慮すべきであり,「年齢によって提供される医療が異なる状況になることは容認できない」という大前提に立って,制度全般の円滑な運営の推進を図るべく検討していく必要がある.
 また,レセプトのオンライン請求等への対応については,万全の基盤整備が必要であり,拙速に推進することは地域医療の崩壊を招くという観点に立ち,平成十九年四月以降の試行的オンライン請求の施行にあたっては,従前から要求している前提条件の実現化を旨とした対応を行う.すなわち,薬効薬理作用に基づいた医薬品の投与を認めること(デジタルによる画一的な審査をしないこと),除外規定の拡大,被保険者証有効性確認システムの確立,レセコンの統一基準化,レセプトデータ利活用に関する問題,IT化財源の別途確保,その他,医療のIT化に伴う諸問題((1)個人情報保護の問題(2)審査での突合の問題(3)認証の問題(4)第三者機関の創設によるレセプトデータ処理実現等)の解決に向けた取り組みが必要である.
 さらに,患者一部負担金の過払い問題については,ルール作りが必要であり,保険者,医療機関,被保険者,法律の専門家等による検討の場を設け,解決に向けた方策を講じるべきである.

10.地域医療提供体制の確立・再生
 地域医師会との緊密な連携のもと,すべての国民への平等で良質なサービスの提供を目指して,地域における保健・医療・福祉を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた地域医療のさらなる充実を目指す.
 特に,都道府県医師会のドクターバンク事業の全国ネットワーク化をはじめとする医師確保対策を推進し,小児救急医療やドクターヘリの推進等の救急医療体制の拡充を図り,さらに改正感染症法を踏まえて新興・再興感染症等の感染症対策を推進するほか,少子化対策,周産期医療の充実,母子保健対策,学校保健対策等,「子ども支援日本医師会宣言」の実現を図る.
 また,過重労働・メンタルヘルス対策をはじめとした労働者の健康確保対策と産業保健活動,環境保健対策,糖尿病等の生活習慣病予防対策,禁煙推進活動,食品安全に関する情報システムの構築等に努める.特に,糖尿病対策については,日本糖尿病対策推進会議との連携のもとに積極的に取り組む.
 さらに,地域における医療提供体制の確立・再生へ向けて,グランドデザインに基づき全般にわたる改革を進める一方,平成二十年度から施行される特定健診・特定保健指導の地域における円滑な実施体制の構築を図る.特に,特定保健指導の中の運動指導において,健康スポーツ医が中心的役割を担えるよう対策を図る.
 介護保険については,報酬改定後の検証作業を通じ,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用に十分関与できるよう対応を図る.その上で,地域ケア整備構想策定における都道府県医師会への役割支援並びに第四期介護保険事業計画作成に向けての意見集約に努める.また,障害者自立支援法の適正な運用を図り,障害者に対する医療についても積極的な対応を図る.
 この他,医療廃棄物,在宅医療廃棄物についても今後の増加に備え,地域医師会を含めた体制整備に努め,環境の立場からも積極的に検討を行う.

11.医療関係職種との連携及び資質の向上
 看護職等医療関係職種の養成は,一義的に国の責任であることを基本とし,医師とその他医療関係職種との円滑な連携を図り,医療関係者に係る諸問題の改善に努力する.
 そうした中で,助産師の養成増を図るとともに,看護職にあっては,社会の高齢化の進展に伴い,医療福祉分野における需要が増加している状況を重く受け止め,いわゆる「三層構造」の堅持,特に,看護師と准看護師とのさらなる連携が重要であるとの観点から,准看護師養成制度を堅持しつつ,新卒者の増員を図るなど看護職全体の需給バランスの確保並びに資質の向上に努める.
 また,介護支援専門員を中心に多職種協働を推進し,ケアマネジメントの徹底化を図る.さらに,地域・家族の同意形成を前提として,今後,社会的に重要となる終末期医療における医療関係職種の相互連携の強化を目指す.

12.医業経営基盤の確立
 地域における保健・医療・福祉を推進し,医療提供体制の確保・再生を図るために,医療機関の経営の安定,財政基盤の充実を図る必要がある.病院・診療所等それぞれの医療機関の役割に応じて業務・経営の改善が必要であり,さらに進んで医業経営の長期安定,再生可能とするための新しい医業の構築が求められている.そのため,医師をはじめ医療関係者の自発的努力が一層発揮できるような医業税制の改善及び適正な診療報酬・介護報酬体系の確立を図り,その実現に努力する.

13.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営
 本事業は,医療事故紛争の適正な処理を通じ,医師と患者の信頼関係の構築に資することはもとより,会員相互の連帯のもとに都道府県医師会との緊密な連携により,医療提供基盤の安定化に極めて有用に作用している.また,今日の高額賠償化の現状や管理者責任への備えに対し,「日医医賠責 特約保険」の加入者の増加に努め,健全な制度運営の拡充を図る.

14.「産科領域における無過失補償制度」の立ち上げ
 医師の無過失による不可避的に生ずる重大な障害は,すべての診療科で発生する可能性があるだけに,この無過失障害補償制度は,本来,国の重要政策の一つである.そこで,昨年以来,崩壊寸前の周産期医療を救うことと,国の政策課題と一致するものとして,日本医師会は,現実的な「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を,先行課題として,国に対し要望してきた.
 その結果,自由民主党は,総合的少子化対策の重要政策課題の一つとして,「産科領域における無過失補償制度」の制度化を決定し,実現の見通しが立った.現在,日本医師会主導のもとに,日本医療機能評価機構に運営組織を置き,具体化を進めている.

15.日本医学会とのさらなる連携の強化
 日本医師会と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術の発展と安全で質の高い医療の確保と推進を目指す.

16.日医総研の多角的活用
 平成九年四月に創立された日医総研は十周年を迎える.これを記念して,五月下旬にシンポジウムの開催を計画している.医療を取り巻く危機的な状況の背景にある,経済優先の考え方を俎上にあげて,優れた医療制度を守り,人間中心の医療の未来に向けた展望を切り拓くために,いま何が課題であるかを議論する.
 日医総研は,(1)科学的なデータに基づく分析による国民に選択される医療政策の企画立案(2)国民を中心とする合意形成を作り出していく(3)信頼できる正確な情報を作って提供していく,この三つを達成することを目的として,日本医師会の活動をサポートするために活動を行っている.
 日本医師会は医療制度改革のビジョンとして,平成十九年八月完成を目標にして,「医療と介護のグランドデザイン(仮題)」の作成に着手している.日医総研は,事務局と連携して,編集作業の取りまとめ役を担っている.需要と供給の将来予測を出発点として,「良質で安全な医療と介護を守る二〇一〇年代の中期ビジョン」を展望するものとする.今後も研究体制と研究内容の一層の充実を図る.
 「医師会総合情報ネットワーク」の重要なコンテンツであるORCAプロジェクトでは,医療事務,介護,電子決済,認証局など医療のIT化に関わる各々の分野で開発・普及を行っている.特に,日医標準レセプトソフトは順調に採用が拡大しており,平成十九年度は四千三百ユーザーの達成を目標としている.

17.治験促進センターの着実な運営
 治験促進センターは,医師主導治験を支援し,科学的な証拠に基づく質の高い医療の提供に貢献する.また,全国規模の大規模治験ネットワーク登録医療機関のさらなる連携の強化,研修の提供,企業治験の機会の提供,普及啓発等を通じ,わが国の治験実施基盤の整備を行う.さらに,小児に使用される医薬品等の臨床研究の普及啓発に努める.

18.医師再就業支援事業(女性医師バンク)の運営
 医師再就業支援事業は,女性医師がそのライフステージを通じ,医師としてのキャリアの継続を可能にすることで,国民の求める地域医療の充実を図り,併せて会員の福祉に寄与することを目的としている.今年度は,平成十八年度に立ち上げた関連事業をさらに推進する.
 まず,女性医師バンクについては,登録数をさらに増加させ,就業成立数を増加させるために,コーディネートの取り組みを進める一方,女性医師再研修の支援は,再研修希望者に対し,研修受け入れ先を増やし,個別の事情や専門科に併せて紹介が可能な体制の確立を目指す.さらに,女性医師の勤務環境の整備についての啓発活動を推進していく中で,都道府県医師会に対し,昨年度に続く「女性医師の勤務環境の整備についての講習会」の開催を依頼し,公立病院運営母体,公的病院運営母体等には直接啓発活動を行う.

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