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第1097号(平成19年5月20日) |
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最新医療を支える安全で適正な輸血と細胞治療を目指して
〈日本輸血・細胞治療学会〉
日本医学会分科会の一つとして,五十有余年,良質な輸血医療を推進するために活動を続けてきた日本輸血学会は,二〇〇六年四月に輸血医療の専門家集団として,社会的な責任を明確にすることとし,有限中間法人「日本輸血・細胞治療学会」として新たに発足した.
二〇〇三年の血液新法施行により,“血液製剤の完全国内自給”を実現するため,輸血医療は根本的な変革を迫られ,従来にも増して安全かつ適正な輸血医療の実践が求められ,他方,補充療法から積極的な細胞治療への新しい展開が期待されてきた.
一,安全で適正な輸血療法の推進
毎年百万人弱が輸血を含む治療を受け,その恩恵にあずかっている.わずか三十年前には,その一割が肝炎に罹患し,輸血過誤や輸血後移植片対宿主病で,それぞれ数百人が致死的であった.その後,核酸検査など感染症診断技術の向上,休日夜間検査体制,認定輸血検査技師制度,血液への放射線照射等で,これらを克服してきた.
しかし,なおも出現する新興再興感染症,ウインドウ期感染には検体保存などで対処を始めた.ベッドサイドでの輸血副作用や輸血過誤などには,関連他団体学会とも協力して,I&A(監査と認証),輸血認定看護師(仮称)制度創設によって良質な人材と施設を育てて,機能の底上げを図る.
高齢者の増加と献血者の減少は,大量出血や遠隔地での輸血医療に深刻な影響を及ぼすことが危惧されている.適正な輸血と自己血輸血は,安全な輸血の両輪として推進したい.
二,輸血副作用の解明と安全性の向上
輸血関連急性肺傷害(TRALI:Transfusion-related acute lung injury)や輸血関連細菌感染は,ABO輸血過誤に次いで多い重篤事象で,世界的な問題となっている.血小板製剤の有効期限は日本だけが三日で,世界的には細菌検査を併用して七日間に延長されつつある.
二〇〇七年一月からは,すべての輸血製剤が白血球除去され,発熱反応や同種免疫の予防と軽減が期待されている.学会が中心となって,もろもろの輸血副作用の情報収集と研究を行い,予防と治療につなげる作業を継続している.
三,高度な医療を支える部門としての細胞治療
細胞による虚血部治療や細胞移植に関与する細胞プロセッシングは,輸血・細胞治療学会が最も重点を置いている.造血幹細胞などで培われてきた成分と細胞抽出技術は,この分野で容易に応用可能で,中央部門として臨床各科に役立つであろう.
これら三つの柱を踏まえて,日本輸血・細胞治療学会は,法人二年目の新たなる活動を,単なる学術団体であることにとどまらず,患者と社会にしっかりした接点を持ち,国民の健康増進と福祉政策に,いっそう貢献できる団体を目指して,今後も積極的に活動していきたい.
【参考文献】
一,輸血医療・医学の新展開.医学のあゆみ 218(6), 2006.
(日本輸血・細胞治療学会副理事長・福島県立医科大学輸血・移植免疫部教授 大戸 斉)
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