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第1099号(平成19年6月20日) |
絶滅危惧種
今や病院勤務を続ける医師は絶滅危惧種らしい.私には,医師として少なくとも三つの絶滅危惧種の顔がある.
第一は,勤務医を続けていること.私は勤務医として三つのやりがいを感じている.(1)若手医師を教育し,優れた臨床医を増やす(2)日常診療に直結した臨床研究をし,エビデンスに基づく,より良い医療の発展に寄与する(3)診療所での難治例を引き受ける後方支援としての使命─これらを達成するためには,より高度な知識や技術,他科との連携が必要であることは言うまでもない.
第二は,学位を持たない診療科部長であること.大学の助手採用や各科の上級専門医取得に際して,昨今は医学博士を条件とする傾向にある.私は,卒業直後は基礎的研究に興味があったが,臨床の奥は深く,学位取得のための研究が良い臨床医となるために役立たないと悟り,その時間を無駄なく臨床の研鑽に当てたいと考えてきた.優れた臨床と優れた基礎的研究が両立可能であろうか.今まで観察してきた先輩たちを見る限り,不可能であると断言する.
第三は,子弟を公立中学へ進学させる親であること.都市部の中学受験熱はすさまじく,経済的に恵まれた医師の大半は,わが子を医学部合格率の高さを売り物にする中高一貫進学校へ進学させるらしい.私が中学受験させないのは,早期の詰め込み教育を正しいと思わないこともあるが,いろいろな家庭背景を持つ友人と交わり,社会全体を見る目を思春期に養って欲しいからである.そうした社会的視点を持たない人が医師になっていくと,将来,日本の医療はどうなるのか.
長いものが正しいとは限らない.大きな潮流に流されず,絶滅しないよう信念を持ち続け,世の中を少しでも良い方向に変えたいと思っている.
(大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科主任部長 片岡葉子)
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