日医ニュース
日医ニュース目次 第1100号(平成19年7月5日)

平成19年度第1回都道府県医師会長協議会
地域医療の崩壊を防ぐため医療費の増加が必要

 平成十九年度第一回都道府県医師会長協議会が,六月十九日,日医会館小講堂で開催された.各都道府県医師会からは,「消費税」「医師確保対策」「医療費抑制策への対抗策」など,多岐にわたる質問が出され,それぞれの担当役員が回答し,都道府県医師会の理解を求めた.

平成19年度第1回都道府県医師会長協議会/地域医療の崩壊を防ぐため医療費の増加が必要(写真) 羽生田俊常任理事の司会で開会.冒頭のあいさつに立った唐澤人会長は,「今日の医療の状況は,医師の不足と偏在による,小児科・産科・救急・過疎地域の問題をはじめ,解決が急がれる課題が山積している.一つひとつの問題に対して,丁寧に取り組んでいきたい」と述べた.

協 議

 (一)鳥取県医師会からの(1)ノロウイルス検査ならびに(2)RSウイルス抗原精密測定の外来での保険適用を求める要望に対しては,鈴木満常任理事が回答を行った.
 (1)については,ノロウイルスのELISA法による検査キットに関して,本年一月に疑義解釈委員会で,その保険適用の議論を行ったが,精度が十分とは言えない等の理由により保険適用を見送ったことなど,これまでの経緯を説明.保険適用になるためにも,迅速・簡便かつ高感度な検査キットの開発が望まれるとの考えを示した.
 (2)については,日本小児科医会等からも要望が来ており,社会保険診療報酬検討委員会においても次期診療報酬改定に向けて検討を行っていることを報告.日医としても,都道府県医師会や関係学会の要望を踏まえて,次期診療報酬改定に向けた議論のなかで,その実現を目指していきたいとの意向を示した.
 (二)新潟県医師会からは,婚姻の解消または取り消し後,三百日以内に生まれた子に対する,医師の「懐胎時期に関する証明書」に関して,懐胎時期が違っていた場合,罪に問われたり,裁判所に召喚されることはないのかとの質問が出された.
 これらの質問に対して今村定臣常任理事は,(1)刑法百六十条の虚偽診断書作成罪および同法百五十七条の公正証書原本等不実記載罪は故意犯の規定であること(2)医師が相当な医学的根拠を持って,懐胎時期を推定する限り,故意がないのが通常であるため,両罪に問われることはないこと─等を説明した.
 また,裁判所への召喚の可能性に関しても,嫡出否認の訴えや,親子関係不存在の訴えにおいて,生物学的親子関係の有無はDNA鑑定で明確となるため,証明書を作成した医師が改めて召喚される可能性はほとんどないとの見解を明らかにした.さらに,医師が証明したのは懐胎時期であり,親子関係ではないため,明らかに間違った診断をしない限り,生物学的な父子関係が否定されたとしても,損害賠償を請求されることはほとんどないと考えられるとした.
 (三)山口県医師会からは,地域医療の崩壊を招きつつある現状を踏まえ,今こそ医療費増加に転ずるよう,国に対して働き掛けるべきとの提案が出された.
 中川俊男常任理事は,「経済財政改革の基本方針二〇〇七(骨太の方針)」が閣議決定される前に,国会議員や新聞社の論説委員等と会合を持って,医療の現状を説明し,医療費の増加が必要なことを訴えてきたことを報告.医療費増加のための新たな財源確保の一つとして,「国の特別会計の改革により剰余金にも検討の余地があることを提案したい」と述べた.
 また,消費税に関しては,国民負担を少なくすることを主張している日医が,税率の引き上げに言及することはしないとし,消費税の引き上げは最終手段でなければならないとの考えを示した.
 (四)医療費財源を消費税に求める石川県医師会の提案には,まず,今村聡常任理事が,医療費財源として消費税を考えることは,最後の手段であるとの日医のスタンスを改めて説明.そのうえで,消費税が引き上げられた場合に備えて,(1)常任理事や日医総研の研究員などによって,本年四月から,新たな医療費財源に消費税を充当する検討を開始し,ほぼまとまりつつあること(2)外部の学識経験者に,消費税を医療費財源にする理論的根拠を示す論文を書いてもらったこと─などを明らかにした.
 一方,中川常任理事は,景気が回復していることから,消費税引き上げの議論は一,二年先になる可能性を示し,そのような状況のなかでは,日医から消費税の引き上げを求めるわけにはいかないと述べた.
 (五)北海道医師会が,「控除対象外消費税問題に関する活動の進め方」について,日医の見解を質したのに対し,今村(聡)常任理事が回答した.
 まず,控除対象外消費税問題は,消費税率変更時でないと根本的な解決策を図るのが難しいと指摘.日医は,非課税制度をゼロ税率ないしは軽減税率による課税制度に改めることを要望して,財務省,厚生労働省保険局・医政局,保険者,経済団体,マスコミ等の関係者の理解を得るための努力を続けている.こうしたなか,鳥取・長野両県医師会の尽力で,両県議会が「消費税非課税取引の見直しを求める意見書」を決議したことに触れ,医療界以外からの支援は非常に心強いものであると強調.各都道府県での積極的な取り組みを改めて要請した.
 さらに,分かりにくい消費税問題を全会員に理解してもらうための小冊子と地元選出国会議員等への説明時の資料を準備中だとし,協力を求めた.
 (六)埼玉県医師会は,厚労省の医師確保対策と「骨太の方針二〇〇七」に関する日医の見解・対応を質問.内田健夫常任理事が,以下のように回答した.
 マグネットホスピタルには慎重な対応が必要.また,緊急臨時的医師派遣システムは,短期的なもので,本来,派遣は地域医療になじまない.基本的には,地域特性に合わせ,地域医療対策協議会のなかで,各医師会が主導的役割を果たして欲しい.臨床研修病院の定員適正化は,日医からの指摘で「骨太の方針二〇〇七」にも盛り込まれ,見直しは早急に進むと考える.
 地域医療提供体制の整備は,「医療施設体系のあり方に関する検討会」で議論中であり,夏ごろ中間取りまとめが出される予定.厚労省案には,医療現場を守る立場から計画の見直し等を求めており,会内でも検討を進めている.
 (七)茨城県医師会は,へき地勤務等,最近の日医の提言について質問した.
 内田常任理事は,地域医療対策委員会の中間答申で触れられ,本年度も継続審議中ではあるが,政府・与党案の医師確保対策にも義務化は入っておらず,日医として提言したわけではないと説明.診療支援システムなどのバックアップ体制や勤務条件などの環境整備と,インセンティブを与えることが重要だと強調した.
 総合医については,現在,会内の学術推進会議,生涯教育推進委員会,そして日本プライマリ・ケア学会等三学会と連携・調整しながら検討中である.内科以外の診療科で開業し,経験も豊富で,地域での役割を果たされている先生方にこそ,総合診療に参加して欲しいと考えている.厚労省の総合科標榜認定は,日医の反対で事実上撤回されているが,今後もきちんと対応したいとした.
 (八)京都府医師会からは,「総合科」「総合医」に関する質問が出された.
 唐澤会長は,厚労省が言う「総合科」「総合診療科」については,早急に止めるよう求めていると説明.さらに,「日医認定医」については,学術推進会議と生涯教育推進委員会で,そのカリキュラムや評価基準の確立等を含めて検討中である.今後は,日医生涯教育制度の三年連続修了証取得者に交付される「認定証」を社会的に評価されるものとし,厚労省にも明確に認識させたいとの見解を述べた.
 また,飯沼雅朗常任理事は,「日医認定医」は,生涯教育のボトムアップを図ろうとの発想であり,厚労省案とは無関係だと強調した.
 (九)京都府医師会からの「感染症対策」について,「日医からの情報が厚労省からの通達の伝達になっており,独自性が見えない」との疑問に対して,飯沼常任理事は,「厚労省とは,通達を出す前の段階で緊密に協議を重ねている」と回答.そのうえで,三種混合ワクチンの接種間隔や,麻しんの定期予防接種に関しても,粘り強く交渉した結果,医療側からの意見が通達に生かされているとして,日医の対応に理解を求めた.
平成19年度第1回都道府県医師会長協議会/地域医療の崩壊を防ぐため医療費の増加が必要(写真) (十)徳島県医師会からは,「禁煙条例を制定する要望書」を県知事宛に提出したことが報告され,各都道府県医師会や日医に対しても積極的な対応を求める要望があった.
 内田常任理事は,禁煙の数値目標を「がん対策推進基本計画」に盛り込めなかったことは大変遺憾であるとした.さらに,「日医は,これまで『禁煙日医宣言』の採択やポスター作成など,禁煙について積極的に取り組んできた.徳島県の提案には全面的に賛同し,日医としても支援したい」と述べた.
 (十一)岡山県医師会からの「政府あるいは厚労省に対する反論を速やかに」との質問に対し,中川常任理事は,「毎週行っている記者会見で,常に問題点を厳しく指摘している.さらに,政府・厚労省の方針に反論するだけでなく,日医の主張が盛り込まれるよう努力している.そうした活動の結果,『骨太の方針二〇〇七』でも,日医の主張が取り入れられた内容となる見込みである」と述べた.
 また,今後も「攻めの広報」を展開していくことを表明.「国民への啓発,国会議員への働き掛け,マスメディア各社への対応が一体的に行われてこそ,医療を取り巻く状況が正しく認識され,あるべき医療の国民的合意に向けた動きが生まれる」とし,「医療崩壊の危機にある今こそ,地域の医療現場の声を,都道府県医師会から発信して欲しい」と結んだ.
 (十二)都道府県医師会の医事紛争処理機関が弁護士会のADR(裁判外紛争解決手続)に参画することに関する大阪府医師会からの質問には,木下勝之常任理事が,「医療事故におけるADRにおいては,弁護士を介しての当事者間の仲裁・調停等は,被害者としての患者の要求する賠償額をかなえる方向でしか,その問題の解決が図れないことが多いと思われる.また,損保業界がADRに参画しなければ,本当の解決は図れない」と回答.
 さらに,現在,日医の医師賠償責任保険制度,各都道府県医師会における「紛争処理委員会」が優れた形で運営されており,ADRがこれら以上に優れた組織であるとは考えにくい.したがって,現時点ではADR参画に必要性を感じておらず,慎重に対応すべきとした.
 (十三)生命保険の書類の書式統一を求める秋田県医師会の要望には,今村(聡)常任理事が,「日医も同様の認識を持っている.現状では,生命保険協会より,大手保険会社の関連会社が開発した文書作成ソフトウェアの活用を薦めたいとの報告を受けているが,保険金不払い問題に対する環境整備のためのもので有料であることから,現状では医療機関で広く活用することはむずかしい」と,これまでの状況を説明.
 このような背景を踏まえ,日医では,厚労省医政局に対して,生命保険会社の責任でソフトウェアが無料提供されるように要望するとともに,生命保険協会に対して,電子化することで勤務医の過重労働が改善されるのか,実証を求めている,との報告があった.
 (十四)医療費抑制策を進める政府にどう対処するかとの福岡県医師会の質問には,中川常任理事が回答.本年三月に日医が策定した『グランドデザイン二〇〇七』を基にして,(1)ロビー活動(地域においては,地元選出の国会議員にデータを持って示す)(2)マスメディアとの持続的なコミュニケーション(3)国民,都道府県民への継続的な情報提供と啓発活動─を,日医と各都道府県医師会が共に行うことが重要だと指摘.「国・地方自治体に対しては,地域における医療現場の現状・実情に沿った計画を作成してもらえるよう要望していこう」と呼び掛けた.
 最後に,羽生田常任理事が,各医師会が行う研修会等での託児室の設置,ブロック会議など,地域における会議開催日程の調整について要望し,会は終了となった.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.