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第1101号(平成19年7月20日) |
地域医療における自殺予防研修会
自殺予防には医療の積極的活用を
地域医療における自殺予防研修会が,6月23日,日医会館大講堂で開催された.
わが国の年間の自殺者が9年連続で3万人を超え,社会問題化するなかで,都道府県医師会役員,日本精神科病院協会会員,日本精神神経科診療所協会会員など,多くの参加者が集まった.
本研修会は,(一)政府の「自殺総合対策大綱」における,医師,医師会の役割,および各地域等における先駆的自殺対策を参考に,地域医師会における自殺予防に向けての取り組みを促進する,(二)年間の自殺者が九年連続で三万人を超えている現状を踏まえ,かかりつけの医師に,うつ状態・うつ病について正しく理解してもらい,早期の診断,治療,専門医への紹介により,自殺者の減少に資する─という目的を掲げて開催されたもので,講演二題と,五名の講師によるシンポジウム,質疑応答が行われた.
天本宏常任理事の司会により開会.
冒頭,唐澤人会長は,「自殺予防には,さまざまな関係者による取り組みが必要であり,日医としても医療担当者の立場から,自殺予防の先頭に立ちたいと考えている」と,あいさつした.
つづいて,橋広幸氏(内閣府自殺対策推進室参事官)から,平成十八年十月に施行された自殺対策基本法,および自殺総合対策大綱について,その基本理念や重点施策を含めたあいさつが行われた.
講演
高橋祥友氏(防衛医科大学校・防衛医学研究センター・行動科学研究部門教授)は,「自殺予防の基礎知識」と題し,自殺予防対策をプリベンション(予防),インターベンション(介入),ポストベンション(事後対応)の三段階に分けて解説し,自殺の危険の高い人への対応策として「TALKの原則」があるとした.
自殺が生じる背景には多くの場合,うつ病をはじめとする精神疾患が存在しており,精神科を専門としない医療関係者にも自殺予防について正しい知識を身に付けてもらう必要があるとして,救いを求める叫びをとらえて適切に対応することが,自殺予防につながると述べた.
樋口輝彦氏(国立精神・神経センター総長)からは,「プライマリ・ケアにおけるうつ病の診断と治療」と題し,自殺対策の一つの柱となる,うつ病に重点を置いた講演が行われた.
うつ症状を呈する患者の多くは,初診時に内科を受診することを挙げ,その他の診療科でも,うつ病患者が潜在すると指摘.うつ病診断として,診断基準と自己評価尺度を紹介し,うつ病の治療方法では,抗うつ薬による治療,専門医へ紹介すべき場合を示し,うつ病患者を出来るだけ早く見つけ出し,治療の軌道に乗せることが,自殺予防につながると説明した.
シンポジウム
午後からは,「それぞれの地域等における自殺予防の先駆的取り組みについて」をテーマに,シンポジウムが行われた.
中島央氏(熊本県精神保健福祉センター所長)による「熊本県における自殺予防への取り組み」では,故三村孝一先生の社団法人熊本県精神保健福祉協会会長就任により,熊本県の自殺問題への取り組みが活発化し,平成十七年に「くまもと自殺予防医療サポートネットワーク」がスタートしたことが報告された.中島氏は,「事業の利用も徐々に増加しており,今後は症例の蓄積や調査を進めていきたい」と述べた.
渡邉直樹氏(青森県立精神保健福祉センター所長)による「青森県における自殺予防の取り組み」では,県内の六戸町と三戸町で行った,住民の自殺に対する考えの調査結果が示された.渡邉氏は,住民のなかに,「悩みを一人で抱え込み,だれにも相談せず責任を果たす」という意識が根強く見られ,自殺につながるこの考えをいかに取り除くかが課題だと述べた.
渡辺洋一郎氏(社団法人大阪精神科診療所協会会長)による「大阪における自殺予防活動」では,大阪府の取り組みとして,同協会の自殺防止キャンペーン活動が紹介された.渡辺氏は,啓発活動として,自殺防止対策のアイデアや標語を住民から募集する企画や平成十七年に設立された「一般医・精神科医ネットワーク(G・Pネット)」について説明した.
徳永雄一郎氏(医療法人新光会不知火病院院長・福岡県)は,「防止可能なうつ病の自殺─うつ病専門病棟における治療実践」と題し,不知火病院での取り組みを交えながら,うつ病治療の場面や自殺の問題について話した.
徳永氏は,うつ病の入院治療中に医療機関での自殺が少ない理由として,自宅療養では,家族や近隣への気兼ねがあるのに対して,うつ病専門病棟では,二十四時間体制の安心感や,同じ症状を持つ患者同士の交流により,治癒に対する理解が得やすいこと等が挙げられると述べた.
斎藤友紀雄氏(日本いのちの電話連盟常務理事)による「いのちの電話における自殺予防─電話相談,面接相談,ネット相談」では,一九七三〜二〇〇三年の三十年間,“東京いのちの電話”によって実施された,医師による精神科面接相談が紹介された.電話相談は,(1)即時性(2)一対性・親密性(3)対等性(4)匿名性─などの面ですぐれていることや,電話での相談ができない若者には,FAXやインターネットを用いた相談窓口を開設し,相談を受けていることなども報告.さらに,国際自殺予防学会の標語「自殺予防はみんなの仕事」を紹介した.
その後の質疑応答では,出席者から多くの質問が寄せられ,活発な意見交換がなされた.
最後に天本常任理事が,地域医療にかかわる医師の使命として,こころのケアの重要性を認識し,予防活動に努めて欲しいと述べ,閉会した. |