|
第1101号(平成19年7月20日) |
医療・介護における地域貢献
私たち医療専門家の立場で,これまで当然と考えていた,医療を通じた地域社会における貢献という概念が,ここにきてさまざまな言われ方をされるようになっている.語られる極論のなかには,経済活動と対極において論じてみたり,予算の過剰な行使ではないかとされたり,いずれにしても経済発展を阻害するかのごとき言辞が,あろうことか,政府関係の会議の中でまで語られているようである.
しかしながら,地域医師会が主体となって運営委託されている地域産業保健センターの運営や産業医活動が,国民の就業活動を応援する意義があることは論をまたない.たとえ,診察や投薬,そして,検査・治療を目的とした通院や入院に時間を割かれることがあったとしても,それは医療の一環として,結局,患者さんの社会的活動性を確保するためなのである.時代の変遷に合わせてさまざまな調整は必要であり,臨床の現場において継続的なイノベーションは実行してきているが,医療における本質は,いささかも変わってはいない.
医療は労働集約型産業と言われているように人件費比率が高く,薬剤や医療材料,その他の経費率や在庫管理も高止まりがちである.
最近続く,診療報酬切り下げ改定とも相まって,企業努力を重ねても利益率は低く,救急対応や予防接種,その他の政策医療も,その割合を増加させれば,公的医療機関の多くがそうであるように,あっという間に赤字体質となってしまう.
このままでは,いくら医療保険での切り詰めを進めても,救急,その他をサポートしていることによって,地域のかけがえのない基幹病院に積み上がった赤字を解消するために,新たな税金投入を持続的に行う必要が増えるばかりだ.その意味では,現行の改革路線は必要な財源を渋って税の別項目に付け回しをしているに過ぎないように思われる.
さらに視点を変え,経済的効果という側面から現代の地域医療を考え直してみると,生産性が低いと言われる医療の,地域における役割の別な側面が見えてくる.
人件費が多いと言うことは,医業収入の多くが,税や保険料などを納入したうえで,給料として地域に還元され,地域経済の活性化に寄与しているのである.また,諸経費も世界企業や中央の大企業だけでなく,地域産業に還流されている.
これは介護においても同様の実態と考えられ,医療法人が介護を含めた地域貢献をしていることは,二重三重に地域経済に寄与していると言えるのではないだろうか.
願わくは,医療のあり方や将来像を語る方々には,こういった現実をご覧になったうえで,実態に即して医療関係者と地に足が着いた論議をしていただくべきではないかと考えている.
(常任理事・石井正三) |