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第1102号(平成19年8月5日) |
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7月11日
「終末期医療費は高額」との考えに反論
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中川俊男常任理事は,日医総研が行った「後期高齢者の死亡前入院医療費の調査・分析」の結果を報告.終末期の入院医療費が高いと言われていることに疑問を投げ掛けた.
今回の調査・分析は,厚生労働省が,いまだに一九九〇,九一年の「社会医療診療行為別調査」を基にして行われた研究を使用しているなど,最近の終末期医療費に関する明確なデータが示されていないことから,その実態を把握することを目的として実施したものである.急性期,慢性期の偏りをなくすために,三病院から抽出した二〇〇六年度中に死亡した七十五歳以上の入院患者四百三人を対象としており,死亡日から遡って三十日分の入院レセプトを分析している.
同常任理事は,実態を把握するために試行的に行ったものであるとしながらも,調査・分析の結果,次の三点が明らかになったと説明した.
(一)急性期のまま死亡するケースでは,入院期間が短いので,終末期の一人当たり医療費総額は十五万六千八百円にとどまる.他方,入院期間が百八十日以上のグループでは,一人当たり医療費総額が一定の値に収れんされており,診療行為がやや変化していることが示唆される(図1).(二)終末期の一日当たり入院医療費の単価は,平均三万千八百円であり,後期高齢者の入院医療費単価(死亡以外の退院も含む)の平均二万千五百円と比べても一・四八倍で,突出して高いとは断定しにくい.さらに死亡前の入院期間が百八十日を超えて死亡に至ったケースでは,終末期一日当たり単価は,入院医療費平均の二万千五百円を下回っていた(図2).(三)今回の調査結果を基に,高齢者の医療費全体に占める終末期の入院医療費を試算したところ,約四千六百億円で,この数値は,二〇〇五年度の高齢者(七十歳以上)の医療保険医療費(入院・入院外)十三・三兆円の三・四%に過ぎない(図3).
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以上のことから,同常任理事は,仮に,医療費抑制のために終末期の医療を限定すべきという意見があったとしても,医療費の観点から言えば,治療を縮小すれば効果があるという理由は見受けられないと強調.また,厚労省に対しては,「社会医療診療行為別調査」を実施し,データを保有しているのであるから,それを基にして,最近の終末期医療費の実態を早急に示すべきと主張した.
なお,今回の調査の詳細については,日医総研ワーキングペーパーNO.144「後期高齢者の死亡前入院医療費の調査・分析」を参照されたい.
*ワーキングペーパーは,日医総研ホームページ(http://www.jmari.med.or.jp/)からも,その全文を閲覧することができる. |